TOPページへ

中国と日本

孤独な大国、中国が抱える内憂

2011年06月01日

2010年9月7日、尖閣諸島で中国漁船による海上保安庁の監視船への衝突事件が起きたとき、日本は中国船船長の勾留を延長したのにかかわらず、起訴しなかった。「事を荒立てるのはよくない」という考えによるものと思うが、事を荒立てた方が外交的にはよかったかもしれない。
あのとき中国共産党は、日本が引かなかったら、軍事的措置を取らざるを得ないところまで自らを追いつめていた。もし、実際に軍事行動を起こしたら、どうなるか?
日本にはアメリカという同盟国があるが、中国には友人がいない。北朝鮮がいるが、これは迷惑な友人。軍事行動を起こしたら、国際社会で孤立するだけだった。
日本が簡単に船長を釈放したとき、ホッとしたのは、むしろ中国だっただろう。民主党政権は、やはり愚か者の政権であった。


東日本大震災後の2011年5月には、中国の温家宝首相(当時)と韓国の李明博大統領(当時)が被災地に入り、被災者を見舞った。日中韓の協調や融和を演出しつつ、原子力利用でも協力していくことを確認したものだった。中国は伸びて行く工業生産を支えるために、韓国は国を挙げて原発プラント事業を進めるために原発推進を望んでいる。
この被災地訪問にタイミングを合わせるように出て来たのが、中国船の船長による「連行されるとき、海上保安庁の職員から暴行を受けた」という発言だった。香港紙「明報」のインタビューに答えたものだが、これは仕組まれたものではないか、と思う。

中国は一枚岩ではない。日本と中国の融和を望まない人民解放軍系の勢力のだれかが、温家宝の外交的成果をつぶすために、船長に金を渡し、「あなたは英雄だ」とか何とかおだて上げて、発言させたのではないか、と思う。相手はただの酔っぱらいだから、工作は簡単だ。


中国は共産党の一党独裁とはいえ、多くの「派」が乱立している。たとえば、産業振興政策を進める経済官僚と、古い軍部体質を持つ人民解放軍の間には深い溝がある。経済成長のためには西側諸国と協調し、貿易を進行していく必要がある一方で、人民解放軍を掌握せずに総書記の座に就くことはできない。

古来、中国では群雄が割拠してきた。秦の始皇帝以来、中国は統一されてあるべきものという病理に支配され、「ひとつの中国」にこだわるのは、その反映だろう。手綱を緩めれば、分裂してしまう危険を自覚しているからこそ、中国は強権で全体をまとめようとするわけである。

中国は、今後どこへ行くのか? その問いの向こうには、内憂を抱える中国の姿が浮かび上がってくる。
中国国内には漢族のほかに55の少数民族が暮らし、内紛の可能性を内包している。また、貧富の差の問題も深刻だ。インターネット人口は、4億5000万人もあり、エジプトの民主化運動がツイッターなどをベースに広まったように、ウェブの中から新たな劉暁波のような活動家が登場して、一気に民主化運動が盛り上がらないとも限らない。むしろ、運動が起きる可能性はいつでもあると言うべきだろう。

中国といえば、少数民族を弾圧し、強硬な領土拡大政策をとるこれからの大国のイメージがある。しかし、それはたくさんの内憂を抱え、友人を持たない孤独な国の裏返しの姿でもあるのだ。

この記事が役に立ったら、シェアしてください。

著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【中国と日本】

中国がアメリカを抜く日は来ない〜習近平独裁政権の前に立ちはだかる苦難

「習近平思想」を取り入れた中国共産党に対抗する「革命」の工作

日本が中国の力を弱めるために為すべき、共産党一掃の大戦略

AIIBが暗礁に乗り上げて幻に終わる、現代版「シルクロード」

尖閣諸島や南シナ海で、中国にどう対抗していくべきか?

中国が海洋進出をはかる根源的な理由とは何か?

中国人は、なぜ自分勝手なのか? 

反日運動の本質は、中国政府への不満や反発である。

中国の覇権拡大に対しては、フィリピンやベトナムと共闘せよ!

孤独な大国、中国が抱える内憂

【最近の記事】

「聖徳太子はいなかった」は、本当か?〜聖徳太子不在論の真実

政治を「祭り事」というのは、なぜか? 歴史を遡り、その秘密を解く!

国が異常なまでに「辺野古移設」にこだわる死活的な意味とは何か?

北方領土についての、これ以上にない「正しい理解」

日本人はどこから来て、どこへ行くのか?ー天皇と神道の淵源を探る

参院選の「定数6増」は、実は野党に有利であることをわかっているか?

移民国家アメリカが移民を拒否したとき、何が起こるのか?

名こそ惜しけれ:責任感に欠けた世の中に求められる、関東武士の精神

北朝鮮の非核化は、ロシアにとって損か得か?

トランプは拉致問題の完全解決を狙っている〜では、日本の今後の対応は?

落ちこぼれから世紀の大品種へ〜コシヒカリの奇跡

新興国中国と覇権国アメリカが衝突〜「トゥキディデスの罠」より危険なものは米中の取引

憲法改正「合区解消」&参院選改革:対応策を洗いざらい整理して明確にしてみた。

中国がアメリカを抜く日は来ない〜習近平独裁政権の前に立ちはだかる苦難

「体制維持」にこだわる金正恩が、本当に怖れているものの正体とは?

Copyright © 「国民のための社会科」 All Rights Reserved.