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中国と日本

中国が海洋進出をはかる根源的な理由とは何か?

2014年05月27日

中国の海洋進出が強引なものになっている。
今年2014年5 月にはベトナムが領有権を主張している南シナ海のパラセル諸島近くで、勝手に石油の掘削を開始。それを阻止するために派遣されたベトナム艦船と中国艦船との間で小競り合いとなった。
過去には、フィリピンの管轄下にあった南沙諸島のミスチーフ礁に上陸して軍事拠点を建設し、ルソン島の約180キロ沖のスカボロー礁も占拠している。

日本の領土である尖閣諸島については、中国は1992年に勝手に「領土」と定め、2010年発効の海島保護法により「無人島につき国家管理地」とした。
他国の領土を国内法で「領土」と定めてしまうのだから、ずうずうしいにも程がある。

こうした中国の動きはかつての帝国主義を思わせるものであり、一般的には自信過剰の新興大国が覇権国家をめざしているように見なされている。
本当にそうだろうか?


古来、中国は海洋から攻撃を受けることが多かった。1840年に勃発したアヘン戦争ではイギリスに惨敗した。1937年から始まった日中戦争では、日本軍の侵攻を受けた。
列強からの攻撃を受け続けてきた「入り口」に当たるのが海岸線である。
そんな屈辱の歴史を持つ中国が近海防衛戦略を国防の基本として位置づけ、堕ちた中国の権威を昂揚させようと考えるのは、自然な成り行きである。
それに加えて、中国には「友人」がいない。歴史上、旧ソ連や北朝鮮と同盟関係にあった時期もあるし、近年はドイツとの経済的な結びつきを強めているが、現在、軍事同盟国はない。
そのため「自分の身は自分で守らなければ」という意識が近隣の国々との間に軋轢を生じさせ、さらなる孤立化につながっている。

中国が影響力の及ぶ海域を広げようとする理由は、基本的には単純だ。アメリカの原子力潜水艦が装備する核ミサイルの射程が年々伸びていく以上、その分、支配下に置く海域を広げていかざるを得ないのだ。
イージス艦でさえ飛んでくるミサイルを迎撃するのは難しいのに、拙い技術しか持たない中国にアメリカのミサイルを撃ち落とすのはほぼ不可能である。
アメリカと戦争になった場合、中国の潜水艦のミサイルはアメリカ本土を攻撃する能力に乏しいため、中国の陸上から発射するミサイルで攻撃することになる。
その何割かは撃ち落とされずに到達するとしても、東シナ海や南シナ海に展開するアメリカの原子力潜水艦から受ける報復の方がはるかに恐ろしい。
したがって「北京を襲うミサイルが飛来する時間をいかに遅延させるか」という課題に取り組む結果、なりふり構わず領海を拡大することになる。
論理的には、地球の反対側を支配下に収めるまで、中国の拡張は続くだろう。
つまり、中国の行動は他国から見れば「侵略」だが、中国にとっては「防衛」なのである。


中国は今後どのような戦略を取ってくるだろうか?
2012年9月、悲願であった空母「遼寧」が就航した。ウクライナから購入した空母「ワリャーク」を改修したものだが、その形状が面白い。
通常、先進国の空母の甲板はフラットであるのに対し、「遼寧」の甲板は前方が斜めに上がっている。高圧蒸気やリニアモーターなどを使って艦載機を発進させるカタパルトを備えていないため、戦闘機に勢いをつけさせて飛び立たせようというわけだ。アメリカやフランスの空母などに比べれば、周回遅れの旧式である。
「遼寧」Googleイメージ画像

それでも発着艦試験には一応成功している。重量のある中国の戦闘機がフルに武器を積んだ状態で飛び立てるかどうかはわからないが、空母としては役立たなくても戦艦としては使えるだろう。このような艦の数を増やせば、自国の潜水艦を襲うアメリカの哨戒機や潜水艦にある程度対抗でき、近海を「聖域化」することは可能かもしれない。
今後は同じような空母を複数建造して就航させ、まずは南シナ海を制圧し、次は東シナ海を奪りにくると予測される。
不細工な兵器を使った「弱者の戦略」だが、意味がないわけではないし、20年後には本当に実力ある空母を所有していないとは限らない。

日本は日米同盟によって守られているため、中国としても手は出しにくい。アメリカを相手に戦って勝てるとは、中国指導部も考えてはいないだろう。負けた場合の責任をどう取るかを考えれば、戦争を仕掛けてくるには蛮勇が必要だ。
ただし、感情に動かされた兵士がミサイルや砲弾を発射してしまう危険は十分にあり得る。
また、中国がフィリピンで取った行動を参考に考えれば、漁民に偽装させた兵士を尖閣諸島に上陸させたり、台風で警備が手薄なときに上陸をねらったりする可能性もあり得る。
現実としては、日本はそのような事態に対処する必要にさらされている。

5月21日、ロシアやイランなど46の国や機構が参加して行われている上海の国際会議で、習近平は「アジアの新しい安全保障の秩序」を唱える演説を行った。
中国の安全を脅かす(と彼らは考えている)アメリカの覇権主義の影響を遠ざけ、中国を中心にアジアの国々で安全保障体制を築こうというものである。
『ドラえもん』のいじめっ子、ジャイアン並の身勝手な主張だが、アジア諸国が共通の経済的利益と安全を追求するという考えについては、今後、日本も検討していく余地があるように思う。

中国は「弱国」であり、「友人がいない国」であり、「列強によって虐げられてきた国」である。そのことが軍拡の原動力になっているとすれば、虚勢を張らずに済む道を探るのも、ひとつの選択肢だろう。

また、最後の王朝である清も、日本では江戸時代初期にあたる時代に満州族が建てた国である。中国民族はもう長い間、誇りを持って胸を張れる時代を過ごしていない。今の中国の動きの深い根底には、中国民族の中華思想的な誇りを取り戻したいという強い願望があるように思われる。

<付記1>
尖閣諸島周辺における中国の活動や「三戦(世論戦、心理戦、法律戦)」と言われる中国独特の戦術について、The PAGEでも解説しておきました。興味のある方は読んでください。
近日本のEEZ内で中国当局が検査「漁業管轄権」とは

<付記2>
このサイトは、以前はseesaaの無料ブログシステムを使って運営しており、この記事にはたくさんのコメントを頂きました。しかし、自己運営に切り替えた際、消えてしまいました。お詫びを申し上げますとともに、今後ともコメントなどの書き込みをよろしくお願い致します。

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【中国と日本】

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