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中国と日本

「習近平思想」を取り入れた中国共産党に対抗する「革命」の工作

2017年10月25日

毛沢東に並んだ習近平

中国共産党大会が、10月18日に開かれ、24日に閉幕した。中国共産党大会とは、中国で5年ごとに開かれる、共産党の最高指導機関である。この大会で示された方針が、基本的な政策となる。
今回の党大会のポイントはいくつかあったが、最も大きなものは、「習近平思想が共産党の規約に書き入れられるか?」という1点であった。

中国共産党の歴代指導者に関わる総規約は、マルクス・レーニン主義以外では次のようになっている。そこに習近平の名を冠した「思想」を加えることになった。

人物 理念
毛沢東思想 日中戦争の中で執筆された「持久戦論」を核とする人民戦争理論など。
【第一段階】強い日本軍の戦略的進攻に対して、弱い中国軍の戦略的防御を行う。
【第二段階】日本軍と中国軍の戦略的対峙。敵(日本)の弱点に向けて行動を起こし、敵を弱体化し牽制する。中国は弱者から強者に転じる。
【第三段階】持久戦の最終段階。日本帝国主義を包囲攻撃し、これを一挙に殲滅する。現在の中国の対日政策は、これに基づく。
鄧小平理論 共産主義でありながら資本主義を受け入れ、富国化を目指す理論。
3つの代表(江沢民) 1.共産党が「先進的な生産力の発展」を代表する。
2.共産党が「先進的文化の進路」を決定する。
3.共産党が「最も広範な人民の利益」を代表する。
※3つ目は、市場経済が進む中で、理論上は共産主義の敵である資本家を国に取り込むための政策。3点のうち最も重要だった。
科学的発展観(胡錦濤) 経済成長が最優先されて深刻化した環境破壊や幹部の腐敗といった社会の歪み、都市と農村の格差是正などを正し、持続可能で安定的な社会の発展を目指す。
習近平の新時代の中国の特色ある思想 中国を「アメリカに並ぶ政治大国・経済大国」とし、中国の偉大さを世界に見せつける。
※「特色ある思想」とは、要するに「共産党が主導する資本主義」のことである。

【毛沢東思想】:中華人民共和国を打ち立てた指導者の思想。
【鄧小平理論】:共産主義でありながら資本主義を受け入れ、富国化を目指す理論。
【3つの代表(江沢民)】
 1.共産党が「先進的な生産力の発展」を代表する。
 2.共産党が「先進的文化の進路」を決定する。
 3.共産党が「最も広範な人民の利益」を代表する。
※3つ目は、市場経済が進む中で、理論上は共産主義の敵である資本家を国に取り込むための政策。3点のうち最も重要だった。
【科学的発展観(胡錦濤)】:経済成長が最優先されて深刻化した環境破壊や幹部の腐敗といった社会の歪み、都市と農村の格差是正などを正し、持続可能で安定的な社会の発展を目指す。
【習近平の新時代の中国の特色ある思想】:中国を「アメリカに並ぶ政治大国・経済大国」とし、中国の偉大さを世界に見せつける。
※「特色ある思想」とは、要するに「共産党が主導する資本主義」のことである。

※鄧小平のトウの正字は、登におおざと。パソコンでは出ないので、「鄧」とする。

ちなみに、中国の理念を順位づけをすると、次のようになる。
1位 思想(人物名を冠する)毛沢東、習近平
2位 理論(人物名を冠する)鄧小平
3位 論・観(人物名なし)江沢民、胡錦濤

習近平はすでに党中央の「核心」に位置づけらていたが、それは江沢民と同等になったに過ぎなかった。しかし、今回の「習近平思想」により、毛沢東に並んだ。

普通に考えれば、習近平が鄧小平を超えたかどうかは異論があるだろう。また、毛沢東と同等の権威があるとも思えない。毛沢東は消滅寸前の共産党を立て直して蒋介石に勝利し、中華人民共和国を樹立したが、習近平はそこまでの功績を立てていないからだ。
むしろ本当の権威がないので、形式的な権威にこだわったと考えられる。

とは言え、侮ってはいけない。前任の胡耀邦が常務委員会9人のうち5人を江沢民に握られて何もできなかったのに対し、習近平は「トラもハエも叩く」(大物も小物も取り締まる)と宣言し、腐敗防止を表向きの旗印として、政敵や自分に批判的な人物を潰し、今や絶大な権力を掌握している。

とくに2015年11月に改革案を決定し、人民解放軍の改革に着手した。「軍の改革は無理」と言われていたが、領収書を2年前に遡って調査し、震え上がらせておいてから、組織改革に取り組んだのだ。

具体的には「国土防御」を目的に7つに分けていた軍区を、「対外戦略」を目的として5つの軍区に転換した。そして、陸軍に大幅に人数が偏ってアンバランスだった軍を、陸・海・空・ロケット軍の4軍にリコンストラクト(解体構築)した。ロケット軍は、宇宙とサイバーを受け持つ。
改革の目的は、指揮系統の1本化だ。これまで中国では各地で軍閥が跋扈して権力争いを続けていたが、それでは現代の軍隊の運営はできない。
しかし、1本化により「勝てる軍」に生まれ変わった。その頂点に立つのは、習近平である。(丹羽宇一郎「習近平はいったい何を考えているのか」PHP選書P.144〜 による。)

技術の向上も凄まじい。量子暗号通信も取り入れた。光子のペアを利用するもので、傍受しても光子の性質が変わってしまい、解読はできない。
人工衛星を使った宇宙攻撃の実験も行なっている。

中国の第1列島線・第2列島線 中国の第1列島線・第2列島線 中国の第1列島線・第2列島線

張子房の思考法から予測される対日政策

中国の戦略思考の淵源をたどると、劉邦を補佐して漢を起こした張良(張子房)に行き着く。
『三国志』の読者なら、名前に聞き覚えがあるだろう。後漢末期の英雄・劉備玄徳が戦うたびに敗れ、冴えない日々を過ごしていた頃、隠棲の賢者・水鏡師から「臥竜、諸葛孔明を帷幕に迎えよ」と勧められる。
まだ無名の諸葛孔明は、常々、自らを管仲・楽毅になぞらえていた。

劉備の第一の従者・関羽は面白くない。「管仲・楽毅は春秋戦国の名人にて、いくら賢人でも、自らを比べるのは不遜に過ぎませぬか」と聞く。
水鏡師は答えて言う。「左様じゃな。孔明が管仲・楽毅に自らを比べるのは、少し間違っておるかも知れぬ。比すべき古人は別にある。それは、周800年を興した太公望、漢400年を盛んにした張子房じゃ。」

劉備も、従者の関羽も張飛も唖然とした。太公望や張子房と言えば、管仲・楽毅よりも高峰と仰がれる、群雄諸侯が欲する軍師の理想像だった、というあの一節に出てくる張子房である。

張良の思考法は、目的を定めて先の先まで考えて手順をつくり、予想される問題は未然に始末し、緻密に実現していく、というものである。
一方で大戦略のスケール感を持ち、一方で創意工夫に富んだ細やかな謀略や詐術に富む。その流れを汲んで、現代では「三戦」(世論戦、心理戦、法律戦)を展開している。
日本人のような単純で、熱しやすくて冷めやすく、恨みも簡単に水に流してしまうような民族では、太刀打ちするのは困難だ。

中国では、まず九州を起点に台湾からフィリピンを経てボルネオ島までを結ぶ「第1列島線」の内側にある海域を、手中に収めようとしている。
台湾や尖閣諸島、沖縄諸島もこの中にある。
伊豆諸島からパプアニューギニアに至る「第2列島線」内の海域も、支配しようとしている。日本と中東を結ぶマラッカ海峡も、中国の支配下に入るだろう。

中国の第1列島線・第2列島線 中国の第1列島線・第2列島線 中国の第1列島線・第2列島線

今年2017年6月13日、中央アメリカのパナマが台湾との国交を断絶して、中国と国交を樹立した。北朝鮮対策で中国に協力を求めるトランプ政権の甘さを突いた工作と見られる。台湾が国交を行なっている数少ない国を減らすとともに、地球の裏側でアメリカの影響する国を掘り崩すつもりだろう。
さらに今回の党大会では、習近平は台湾出身の学者・廬麗安氏を招いて親密さをアピールした。これは「ひとつの中国」へのプロバガンダである。
台湾は、すでに中国の射程に入っている。「アメリカがどう動くか?」だが、中国と台湾では市場としての大きさも、軍事力も違いすぎる。「いざとなれば、台湾は中国にくれてやる」というのが、アメリカの本音ではないか?

敵国条項の対アメリカ世論工作への活用

近い将来、中国は台湾を統合し、その勢いをかって、尖閣諸島を獲りに来るだろう。今のところ、わずかに潜水艦などで日本が優位に立っているが、老朽艦まで駆り出して、しのいでいる状態だ。非常に危ないと言っていい。

習近平は、尖閣諸島について、「日清戦争末期に日本が中国から盗んだ」と述べている。もちろんウソだ。日本が尖閣諸島を領有したのは、1895年4月に締結された下関条約より前であり、清が日本に割譲した「台湾および澎湖列島」にも尖閣諸島は含まれない。
でも中国にとって、そんなことはどうでもいい。要は「獲れればいい」のだ。

尖閣諸島 中尖閣諸島 尖閣諸島

尖閣獲りに際しては、中国はアメリカで派手な宣伝戦を行い、正当化するだろう。その際、中西輝政氏(京都大学名誉教授)は、国連憲章のうち改正されずに残されている、いわゆる敵国条項を中国がアメリカの世論工作に利用する危険性を指摘してしている。

国連憲章 第53条
1.安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の地域的取極または地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関によってとられてはならない。もっとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。

国連憲章 第107条
この憲章のいかなる規定も、第二次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない。

国連憲章53条と107条は、日本など旧敵国が侵略行動や国際秩序の現状を破壊する行動に出たとき、戦勝国が安保理の許可なく、独自の軍事行動を取ることを容認している。
中西氏は、日本政府が海自に海上警備行動を発令したとき、次のような声明を発表する、と予測している。
「中国は、国連憲章の定めを破り、再び侵略行動を開始した日本を制裁するため、国連憲章第53条に則り、対日軍事行動に突入する。」
アメリカ人は、日本人を守るためにアメリカ人の血が流れることを望んでいない。国連憲章という大義名分を突きつけられて、アメリカの世論は一気に「尖閣に介入すべきでない」という意見に傾く怖れが高い。(中西輝政「中国外交の大失敗」PHP選書 p.206〜。)
日本は、中国の反対で実現困難な安保理常任国入りを目指すよりも、国際法の盲点を突く敵国条項の廃止に動くべきだろう。

もうひとつ、重大な問題がある。

日米安保条約 第5条
 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。

中国が尖閣諸島を実効支配したら、どうなるか? 「日本国の施政の下」ではなくなるので、日米安保条約は適用されない。
「たかが岩のような小島」などと軽く見てはならない。尖閣諸島は沖縄石垣島のすぐ北に位置する。日本にプレッシャーを加え、可能なら沖縄からアメリカ軍を撤退させ、沖縄を占拠し、太平洋に進出できる好位置だ。
中国は尖閣諸島を足場にして、太平洋をアメリカと2分する戦略へ向けて、着々と手を打っているのである。あわよくば、日本を東西に分断し、天皇を死刑にして日本の精神の核を抜き去るだろう。

「主席」の復活と就任を狙う習近平

習近平が自由よりも権威や統制を好む人物であることは、今回の共産党大会で明らかになった。
チャイナ7のうち、習近平と李克強を除いて、江沢民系の5人が退陣したのも、予測されていた通り。替わって常務委員となった粟戦書、汪洋、韓正、趙楽際、王滬寧は、習近平の手足だ。
共産党青年団のエース胡春華と、おべっか使いの陳敏爾の起用は見送られた。胡春華は習近平の強力なライバルになり得るし、陳敏爾は器ではあるまい。
反腐敗闘争を指揮してきた習近平の盟友・王岐山は入らなかった。常務委員になるには「党大会の時点で68歳まで」とされるが69歳になっているのと、トラ退治も鉾の納めどきなので、避けたのだろう。これも多くのウォッチャーが予測していた通り。

後継者も置かなかった。これは、5年後の共産党大会で、「主席」への就任をもくろんでいる可能性がある。
習近平は「国家主席」だが、毛沢東は「主席」。似た用語だが意味は違い、「主席」は常務委員会を招集するだけでなく、主宰することができる絶対権力者だ。毛沢東時代には、毛沢東が「主席」で、劉小奇が「国家主席」だった。
毛沢東による文革(文化大革命)を経験した鄧小平が、独裁の弊害を防ぐために1982年に廃止したが、毛沢東は死ぬまで「主席」として、最高位にあった。すなわち引退がない。習近平は、5年後の党大会で、「主席」の復活と就任を狙ってくるかもしれない。

中国共産党の力を弱める工作の核は何か?

近年、中国では文革の話題はタブーとなっているという。苛烈な綱紀粛正と言論封殺による習近平の手法は、毛沢東による独裁を彷彿とさせるからであろう。 では、権力の集中により強大化する中国に、日本はどう対処すべきか?

文革を経験していない世代は、自由を求める。その世代に向けて、日本は「共産党の天命が尽きた」ことをアピールしていくとよい。
中国の民衆は、「天」に直結している。それは文明の本源的な部分で、日本人が「清き、あかき心」を持って、神社の前でパンパンと手を叩き、神を拝むのと同じようなものだ。

古来、中国では天子に徳がなければ、天の命によって革命が起こるとされてきた。この動きは中国文明の本質に関わるものだから、きわめて激しい。 日本はその部分に、塩酸のように工作を行うべきだ。

もちろん、共産党が倒れたからと言って、中国の野望が止むとは限らない。しかし、「日本帝国主義を包囲攻撃し、これを一挙に殲滅する。」という毛沢東思想は、今でも生きている。
一方、蒋介石が率いた台湾は親日的で、もし蒋介石が毛沢東に勝っていたら、日中関係は世界が羨むほど良好なものになっていたかもしれない。
敵は中国共産党にあり。軍事力のない日本は、工作や広報などの「ハイブリッド戦争」によって、共産党の力を弱めることを考えるべきなのである。

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【中国と日本】

中国がアメリカを抜く日は来ない〜習近平独裁政権の前に立ちはだかる苦難

「習近平思想」を取り入れた中国共産党に対抗する「革命」の工作

日本が中国の力を弱めるために為すべき、共産党一掃の大戦略

AIIBが暗礁に乗り上げて幻に終わる、現代版「シルクロード」

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