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ヨーロッパと日本

ドイツの野望ーEUはドイツにどんなメリットをもたらしたのか?

2017年4月22日

ヨーロッパが揺れている。フランスでは4~5月の大統領選に向けて、ルペン氏などEU離脱を訴える候補者に支持が集まっている。6月にはすでにEU離脱が決まったイギリスで総選挙が行われ、メイ首相の信が問われる。
各国ともEUとの関係が焦点となっている。「EUは失敗だった。離脱すべきだ」「ユーロは失敗だった」という声が湧き上がっている。

部外者である日本人から見ても、「経済格差が大きい国々で共通通貨ユーロを使うのは、無理なのではないか?」と思える。
なぜ、そんな困難な道を選んで、ユーロを維持しているのだろうか?
今回は、その謎解きをしてみたいと思う。


まずは、EUについて基本的なことを振り返ってみよう。

ヨーロッパは2度にわたって世界大戦を経験した。その反省に立ち、石炭や鉄鋼が戦争の要因のひとつであったので、宿敵であった西ドイツとフランスが「国を超えた組織で管理しよう」と手を結んだ。そして、ベルギー、イタリア、ルクセンブルク、オランダを加えて、1952年に6ヶ国でECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)を発足させたのが、ヨーロッパ地域連合の始まりだ。

1952年◇ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)設立。
1958年◇EEC(欧州経済共同体/European Economic Community)発足。
1967年◇EC(欧州共同体/uropean Community)発足。
1993年◇EU(欧州連合/European Union)発足。
1999年◇ユーロ導入(市場取引のみ)。
2002年◇ユーロの一般使用開始。
2017年現在◇EU加盟国は28ヶ国、ユーロ使用国は19ヶ国。イギリスはEU離脱交渉を予定。


このECSCが現在のEUに至るわけだが、ではユーロ導入のメリットとは何だったのか?

ズバリ言うと、経済力が弱い国にとって最大のメリットは、政府が国債の発行などでお金を借りる際の負担を減らせることだ。ドイツと同じ通貨圏に入ることで国の信用が増して、以前に比べて低い金利で国債を発行できる。つまり国債を買ってくれた人に払う利子が少なくて済む。国家レベルなので、これは相当な巨額となる。
また、旧ソ連圏の国の場合、ユーロを導入することが安全保障にもつながる。

しかし、経済力に格差のある国々を統合するのは、本来、難しいことだ。2015年にギリシャがデフォルトの危機を迎え、大問題になった記憶はまだ新しい。経済的に強い国にとって、足を引っ張る弱小国の存在は負担にならないのだろうか?

実はここにカラクリがある。次のグラフを見て頂きたい。

ヨーロッパ諸国の経常収支の推移 ヨーロッパ諸国の経常収支の推移 ヨーロッパ諸国の経常収支の推移

ユーロ導入以前には、ドイツマルクのような強い通貨を切り上げ、ギリシャのドラクマのような弱い通貨を切り下げることによって、通貨による競争力を調整していた。しかし、ユーロ創設により、参加国は共通の土俵に上がることになってしまった。

ユーロ導入以降、ドイツの経常収支は大幅に伸びている。一方、イギリス、フランス、ギリシャは低迷している。その他の国も似たようなものだが、とくに南ヨーロッパ諸国の低迷が著しい。
※イギリスはユーロには参加せず、ポンドを維持してきた。
※ギリシャがかろうじてプラスになりつつあるのは、緊縮財政が一定の効果を上げていると考えられる。

ユーロの導入は、ドイツの一人勝ちをもたらした。その理由は、次のようにまとめることができる。
1.ユーロの為替レートは経済力が弱い国を含めた平均値で決まる。ゆえにドイツにとってユーロは割安で、輸出に有利に働く。
2.かつてのようにドイツマルクの切り上げというハンディキャップを負うことがない。
3.東欧諸国から安い労働力を集めて生産性を上げていくことができた。


おそらくドイツはこうなることを見越して、ユーロを創設し、多くの国々を引き込んだのだろう。

確かに人やモノの行き来が自由になることで、ヨーロッパは便利になり、一体感が生まれた。しかし、多くの国々では経済状況が悪化した上に、対ドイツで貿易赤字になっても、もはや自国の通貨安で調整することはできない。

近年は中東・北アフリカから来る難民や出稼ぎ労働者が増え、治安も悪化している。ドイツの場合は東欧出身者に替わる労働力確保のメリットが大きいが、ほかの国々ではデメリットの方が大きい。

そうかと言って、EUから抜けるとヨーロッパ諸国のグループからはずれることになるので不安だし、関税などの面で不利にさせられてしまうから、簡単には離脱はできない。
イギリスでは国民の怒りが頂点に達して、ついにEU離脱が決まったが、そのほかの国々でも不満が高まっている。

ドイツはヨーロッパ諸国をなだめすかしながら、EUの運営を続けていくだろう。そして、EUの力を背景にロシアと対峙し、アメリカ・日本・中国と経済競争を行い、中東へ勢力圏を広げていくだろう。

第二次世界大戦でヒトラーが描いたドイツ帝国の野望は、今、きわめて合法的な形で実現しているのである。

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【ヨーロッパと日本】

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