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ヨーロッパと日本

「炭鉱のカナリア」イギリスで探れ、EUの未来!

2018年3月28日

反EU政党を「ポピュリズム」で済ませるマスコミの安易さ

イタリアで、3月4日、総選挙が行われ、EU懐疑派の「五つ星運動」が南部、島嶼部を中心に票を集め、躍進を遂げた。
一方、北部では「同盟」を主力とする右派連合。マッテオ・サルヴィーニ党首は、選挙スローガンとして「イタリア・ファースト」を掲げ、反移民、反EUのスタンスを押し出して、シルヴィオ・ベルルスコーニ元首相が率いるフォルツァ・イタリアを凌駕した。
もし、「五つ星運動」と「同盟」が手を組んだら、EUにとって非常に難しい事態となるだろう。

さて、ちょっとテレビをつけたら、池上彰氏が解説をしていて、説明板にはこれらの政党のことを「ポピュリズム(大衆迎合)」と書いてあった。

「またか…」と、私は思う。
まあ、ポピュリズムと言えなくはないし、そう呼んでおけば無難にまとまるだろう。
テレビに限らず、新聞各紙も同じような捉え方だ。

しかし、「本質」をはずしている。


なぜ、マスコミがどこもかしこも、これらの政党を「ポピュリズム」と呼ぶのか? それは、EUを「善」と考えているからであろう。EUが善なので、反EUは悪になるわけだ。
おそらくは漠然と「EUとはヨーロッパが仲良くする善なる組織」と考えているに違いない。

この根底が間違っているのだ。

EUの始まりは、1952年に設立された欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)とされる。そして、その設立については、「2つの大戦で甚大な被害を被ったヨーロッパ諸国は、戦争の原因となった石炭と鉄鋼を共同で管理しようとした」と説明するのが一般的だ。当時、石炭と鉄鋼がおもな戦略物資だったからだ。しかし、本当にそうか?

しばらく前、本屋で予備校の先生が書いたという政治解説本をパラパラとめくっていたときも、「戦争をなくすための人類の知恵だ」などと書いてあった。
「ありゃあ」である。高校生相手の受験用の解説ならともかく、社会人向けの書籍としては失格だ。

考えてもみてほしい。戦争をなくすために、国々が戦略物資を共同で管理するだろうか?
日本が中国や北朝鮮と、石油を共同管理するだろうか?
「戦争の原因になった石炭と鉄鋼を共同で管理することで、戦争をなくそうとした」というのは、子どもだましである。

日本人らしいナイーブな見方だが、この程度の政治センスが「ヨーロッパの反EU政党の台頭はポピュリズム」という報道の根底になっているのである。

EUの原点は、アメリカのヨーロッパ戦略

欧州石炭鉄鋼共同体の背景にあったのは、アメリカのヨーロッパ戦略である。

第二次世界大戦後の1949年、西ドイツが発足した。そして、米ソ英仏によるドイツ占領は1955年に終わることになっていた。
機能主義的で論理に長けたドイツの国民性は、世界でも類を見ない。「将来はきっと復活して、世界の脅威になる。ドイツを野放しにしておくと危険だ」と考えたのが、アメリカである。

アメリカは、まず、フランスとドイツの軍隊を統一しようと目論んだ。国に勢いがあるときは無理だが、ドイツは壊滅し、フランスも衰弱し切って、チャンスだった。この2国の軍隊を統一すれば、ヨーロッパは戦争できなくなる。

当時のヨーロッパにとって脅威だったのは、ソ連である。アメリカが仮想敵としたのも、ソ連である。
そこで、アメリカは「ヨーロッパ同士で戦争をしている場合ではない。現に東ドイツはソ連の勢力圏ではないか!」と正論をかざすことで、フランスとドイツを結びつけようとしたのである。しかし、この2国は歴史的に非常に仲が悪い。隣り合う強国というのは、反発し合うものなのだ。

結局、フランスは「ノン」を貫いた。そこで、アメリカは次善の手として、西ドイツをNATOに取り込もうと考えた。
NATOのメンバーになれば、一国での軍事行動を取りにくくなるからである。いわば、囚人用の拘束服を着せてしまおうと考えたのだ。

そのため、西ドイツと旧連合国を協調させるための布石として、欧州石炭鉄鋼共同体の話題づくりをしたのである。その後、西ドイツは1955年にNATOに参加。ヨーロッパは、アメリカの目論見通りに動いたことになる。

もちろんアメリカの戦略だけではなく、ヨーロッパで統合への動きが頭をもたげていた背景もあるが、EUはこういったアメリカの戦略をもとに誕生したものなのだ。
「ヨーロッパは仲よくひとつの国へ」というような見方は、的外れであることがわかる、と思う。

欧州石炭鉄鋼共同体は、1958年にEEC(欧州経済共同体)となり、1967年にEC(欧州共同体)となった。そして、1993年にEU(欧州連合/ヨーロッパ連合)となった。
2002年、12ヶ国で共通通貨ユーロを導入。ユーロに加盟すれば、経済大国であるドイツから融資や支援を受けやすくなるし、ドイツと同じ通貨圏に入ることで国の信用が増して、低い金利で国債を発行できる。
また、ロシア近郊の国々では、多分に心理的なものだが、ロシアの脅威から身を守る防御壁にもなると受け止められた。そのためユーロ加盟国は増える一方だったが、近年はギリシャ危機などを契機に、危険な反面がクローズアップされるようになった。

経済格差が大きすぎる国々の通貨を統一するのは無理があったが、裏のカラクリもあった。ドイツの深謀遠慮については、次の記事に書いておいたので、ご興味のある方はお読み頂きたい。
ドイツの野望ーEUはドイツにどんなメリットをもたらしたのか?

結果的に、ユーロはドイツの1人勝ちをもたらした。それに対して、ほかの諸国の不満が渦巻いているのが、現在のヨーロッパである。

「炭鉱のカナリヤ」イギリスに倣うヨーロッパ諸国

通貨の発行権は、通常、国が持っている。ヨーロッパ諸国はそれぞれメリットを計算してそれを放棄したが、放棄しなかった国もある。その代表がイギリスだ。

世界史を振り返ると、イギリスが先行し、他国が続くという事例は非常に多い。シニカルな国民性、ドーバー海峡を隔ててヨーロッパのことを客観視しやすい地政学的条件、島国の人々が国民性として持つ反応の速さ、他国の追随を許さない情報分析力などが相俟って、物事に敏感に対応するためかと思われる。

昔、炭鉱を掘るときには、カナリヤの入った籠を先頭にぶら下げた。もし、ガスが発生したときは、カナリヤが死ぬことでそれがわかるようにしたのであるが、イギリスは世界の政治経済において、「炭鉱のカナリヤ」的な役割を果たしてきた。
イギリスで起きることは、ほかの国でも起きる。関税など多少の犠牲を払っても、EUとは距離を置くというイギリスの選択は、今後もっと多くの国に広まると見ておくべきである。

現代社会はグローバリズムの中にある。国と国との往来がさかんになれば、経済はどんどんグローバルになっていく。その分、他国の政治経済の震動も受けやすくなる。その点、ヨーロッパは、中東・北アフリカの争乱の影響を受けやすく、今は大量の移民流入に苦しんでいる。

EUの盟主であるドイツのメルケル首相の腹の内を見透せば、「中東・北アフリカからの移民は防げるものではないし、角が立たないように受け入れて、ドイツで3Kの仕事に就いてもらおう。そして、ドイツ経済の活性化に役立たせたら、そのあとは他国へ流れて行ってもらうようにしよう」ということであろう。
こうしたメルケルの考えは、ヨーロッパ各国の人々も、薄々勘づいていると思われる。

最終的に受け入れる国は大変だ。EUに従っている限り移民を拒めないのであれば、EU脱退を掲げる政党が伸びてくるのは、当然。ポピュリズムでも何でもない。

EUの未来を考えれば、やはり弱体化は避けられないだろう。もちろん、これまでに築いてきた関税同盟としての機構や「ユーロ」などが一気に失われるわけではないが、ブレグジット(イギリスのEU離脱)後は、イギリスという世界最高レベルの情報分析力が失われて急速に屋台骨が揺らぎ、ほころびが広がっていく。そして、数年かせいぜい10年以内に大きく立ち枯れていく。

目下、日本政府はイギリスとの「現代の日英同盟」を進めている。どの学者や官僚が出したアイデアかは知らないが、さすがの鋭さだ。
アジアへ軍艦を派遣してもらうことで中国への牽制として役立つだけでなく、イギリスからもたらされる情報は、今後の日本のヨーロッパ戦略に大いに益するに違いない。
しかし、イギリスもまた、アイルランドなどの火種を抱えている。
イギリスが分裂などをしないことを、切に願う。

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【ヨーロッパと日本】

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