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ヨーロッパと日本

ギリシャがデフォルトしたら、世界にどんな影響を及ぼすか?

2015年07月06日

ギリシャは民主主義発祥の国として知られる。ただし、民主主義という言葉は、ヨーロッパやアメリカでは、日本と違って必ずしもよいニュアンスを持ってはいない。衆愚政治にもつながるからだ。そのような民主主義の本質的な一面を思い出せる事態が、今日起きた。ギリシャの国民投票で、緊縮財政を受け入れないとする意見が過半数を上回ったのである。
これにはヨーロッパ、アメリカ、日本はがっかりしただろう。ギリシャ国民の本音は「緊縮財政には反対。ユーロ離脱にも反対」ということだ。要するに「カネは返せないが、節約生活は嫌だ。カネを貸してくれたユーロの仲間からも離れないぞ」というわけで、まるで子どもの理屈である。
古代ギリシャには、陶器の破片に独裁者になりそうな人物の名前を書いて追放する制度があったが、国民投票で反対するように呼びかけたチプラス首相はまさに陶片追放されるべきだろう。


次の注目日は7月20日だ。この日、35億ユーロにもなるギリシャ国債が償還日を迎える。新しい動きがない限り、公的機関が保有する国債なので、名目上は債務不履行とはならなくても、事実上はデフォルトとなる。
そのような次第でギリシャがユーロを離脱して、通貨はドラクマに戻ると言われているが、果たしてどうだろうか?

ドラクマに戻ったらどうなるか、この答えは簡単だ。もどった瞬間、ドラクマは暴落する。そして、「白馬の騎士」として、2つの国が名乗りを挙げるだろう。ロシアと中国だ。
ロシアから見ると、ギリシャは地政学的意義が大きい。ロシアから黒海を経て地中海に出るには、ダーダネルス海峡を経なければならない。この海峡が位置するトルコとロシアの関係はそう悪くない。ロシア海軍が地中海へ出るためにはトルコとよい関係を築くことが不可欠であるし、トルコにとってロシアはエネルギーを供給してくれる重要な国であるからだ。お互いに必要としている。

ギリシャはロシアにとって、「トルコの先にあって、あれば非常に役立つ」という位置づけだ。黒海からの通行路にあたるトルコほど重要ではないが、ギリシャと友好関係を築いていれば、物事を何かと有利に展開できる。たとえばロシア軍の基地を建設するなど。こういったことは、EU諸国にとって、あまりよい話ではない。そのためチプラス首相は「イザとなれば、ロシアに頼るからな。頼るからな…」と脅しをかけて、EUの譲歩を引き出そうとしているわけである。

もう一国の中国は、今現在、上海株の株安のため、のっぴきならない状況にあるが、株安などよくあることだ。ギリシャがユーロを離脱したら、「救援」に走るだろう。より大きな見返りを求めて。将来への布石を打つチャンスを逃すことはない。

ギリシャ国民には中国への不信感があるが、ロシアだけに頼ることはできない。なぜなら、ロシアにとってギリシャは絶対に必要な国ではなく、「あると非常によい」という位置づけに過ぎないからだ。ギリシャがなくても、トルコと友好関係を結んでいれば、黒海から地中海に出ることはできるし、ロシアの財政だってよいわけではない。となれば、支援できる金額には限界がある。誰だって、返ってこないとわかっているお金をそう多くは貸せないだろう。
その結果、中国のお金にもダボハゼのように飛びつかざるを得ず、これは中国の新シルクロード構想を利することになるだろう。

日本にとっては、マイナスだ。アベノミクスは円安・株高を基本とするが、ユーロを危険と見た資金が円になだれ込み、円高に振れてしまうからだ。円高になれば、自動車産業のような輸出産業に不利になる。

ただし、ギリシャの通貨がドラクマに戻るとは限らない。
ユーロの規定では、ユーロに参加したり、離脱したりする際には、その国の意思が尊重されることになっている。従って、ドイツなどがギリシャを切りたいと思っても、そう簡単には切れない。ギリシャ国民が「ユーロに残りたい」と意思表示すれば、残ってしまう可能性も十分に高い。


ギリシャの問題は、ほかのEU諸国にとっても迷惑である。そもそも経済力が違いすぎる国を通貨統合しようという考えが甘かったのだ。
ロシアや中国が入ってくるのを阻止できるなら、本当はギリシャはEUを離脱する方がお互いにラクだろう。
ギリシャ財政は年がら年中、いわゆる破綻状態にあるが、ドラクマの価値が下がれば外国観光客は過ごしやすくなるため、観光客が増えて財政は少し良くなる。その繰り返しをしているのが、たぶんベストだったのだ。
欧州陣は、まじめにギリシャのソフトランディング離脱を進めてはどうだろうか?


ギリシャはなぜこのようなていたらくとなってしまったのだろう。
その解説には文明論的な視点が必要であるように思われる。
かつてペルーに栄えたインカ帝国は、わずか168名の兵士と1門の大砲、27頭の馬しか兵力を持たないスペイン人ピサロの軍隊に敗れて滅んだ。また、メキシコに栄えたアステカ帝国も、わずかな数のスペイン人部隊を率いるコルテスに敗れて滅んだ。

ピサロやコルテスに、韓信や大村益次郎のような軍才があったわけではない。結論から言えば、インカ帝国やアステカ帝国は文明としてはすでに滅んでいたが、形だけなんとか国として残っていたものを倒したに過ぎない。実質、滅んでいたものを滅ぼした確認をしただけなのだ。

ギリシャにも似た臭いがある。この国は、文明としては残念ながら滅んでいる。
第二次世界大戦後、占領国はドイツの借金を帳消しにしてやり、それがドイツの復興につながった。しかし、ギリシャの借金を帳消しにしてやっても、この国は何も変わらないような気がする。

停滞、混乱、矛盾、退廃。

それが続くことがわかっている以上、欧州中央銀行の支援拡大には限界があり、喉に引っかかった骨のようにEUを苦しめ、アベノミクスに影響を与えるとともに、「またか」というわけで、大きく影響してすぐに陳腐化するネタを、繰り返し世界経済やマーケットに提供することになるのである。

<後記>
 ギリシャ・チプラス政権が改革案をEUに提出したことが報じられた。問題は、どの程度本気であるかだが、率直に言って信用できない。年金の給付制限や増税などをチラつかせてESM(欧州安定メカニズム)から支援を引き出し、国債の償還問題を回避するのが目的だろう。
 回避したあとは、元の木網となる。ギリシャに本当に必要なのは経済を支える産業の改革だが、国民がこんなゴマカシ策に踊らされているようでは、そこまでたどり着くのは難しいと思う。
「北斗の拳」のケンシロウ風に言えば、ギリシャはもう死んでいる。

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【ヨーロッパと日本】

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