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日本の政治・経済・社会

葉っぱビジネスの快挙

2012年12月19日

先日、徳島県上勝町へ「葉っぱビジネス」の取材に行ってきた。
上勝町は、人口約1900人の、四国で最も小さな町だ。住民の2人に1人が65歳以上の高齢者で、しかも75歳以上が人口の30%以上を占めている。そして、年々過疎化が進んでいる。
にもかかわらず、上勝町の高齢者たちは生き生きと働いている。それが「葉っぱビジネス」だ。

簡単に言えば、「山で葉っぱを採って、料理の飾りとして出荷する」というだけのことである。
実は、取材に行く前は紅葉の季節がメインとなると思っていた。そんなわけで紅葉の盛りに取材させてもらったのだが、商品は思っていたよりもずっと多岐に渡っていた。


「葉っぱビジネス」を思いついた人は、横石知二さんという。もとは農協の職員で、現在は第3セクターの会社「いろどり」の社長をつとめて、営業や情報の分析、農家のパソコンの指導などにあたっている。

横石さんによると、上勝町の農協の出荷場はさびれて蜘蛛の巣が張る状態だったという。「なんとかしなければ」という気持ちでいたが、ある日、大阪の寿司屋で若い女性たちが飾りの葉っぱを見て、「きれいねー」、「ハンカチに包んで、持って帰ろう」と言っているのを聞いて、「これだ!」と思ったそうだ。

ただし、本当の闘いはここから始まる。まず、「葉っぱを売ろう」と言っても、農協の職員はだれも賛成してくれない。農家も「そんなミジメなことはしたくない」という。成功した今では、葉っぱは立派な商品だが、農産物を売るのが当たり前という世界観の前では、葉っぱを売るのは社会の底辺に堕ちたことを意味したのだ。
それでも何度も説得しているうちに葉っぱを採ってきてくれる農家も現れたが、まったく売れない。
「需要はあるはずなのに、なぜ売れないのだ?」と、苦闘は続く。
横石さんは、その理由を解明するために料亭へ赴いたが、剣もホロロ。相手にしてもらえなかったので、家族を顧みず、自分の給料をつぎ込んで料亭に通ううちに、熱心さに打たれたのか、料理人が教えてくれたそうだ。

季節や時期ごとにどんな葉・花・実が必要とされるか?
日本料理ではどんな器を使い、それぞれどのくらいの大きさの素材が必要となるのか?
葉や花、実は、日本の古典ではどのように描かれているか?
もちろん、わずかでも枯れた部分や目に見えないほどの虫も、完璧に取り除かないとならない。

つまり、着想はよかったが、「商品」に落としこむハードルが極めて高かったのである。

私は、ちょうど1ヶ月ほど前、東京都港区愛宕のミシュラン2つ星の料亭「醍醐」の料理長、野村大輔さんに取材したばかりだったので、日本料理人が求めるレベルの高さは察しがついた。たしかに、なまじっかな勉強では追いつかないはずである。
一級の料理人は日本文化の高い素養を持っており、その要望に応えるには相当な教養と現場のニーズに応える細かいノウハウが必要になるのである。


何はともあれ、「葉っぱビジネス」は成功した。上勝町にはもともと花や果実を育てている農家が多く、植物を育てる知識や技術があったことも幸いした。
「葉っぱビジネス」というと、山に自生している葉っぱを採ってくる印象があるが、実際はキャベツやイチゴなどと同様、育てているのである。カエデの温室もあるくらいなのだ。

成功してみれば、社会的意義は大きい。料理人にしてみても、以前は季節のあしらいを自分で探して、飾りをつくっていたが、市場で仕入れることができるようになった。

さて、取材前、私は「きっとほかの地方でも、似たようなビジネスが出て来て、今や苦戦しているにちがいない」と予想を立てていた。
どんなビジネスでも最初に取り組む人がいて、次に似たようなアイデアを持っていた人が「実は自分も同じことを考えていたんだ」と続く。さらに儲け話ならダボハゼのように何でも飛びつくタイプの人が参入してくる。そして、競争を経て一部が残るものだからである。しかし、創業20年を超える今でも、競合は少ないそうだ。
年間を通じて多様な素材を出荷するには、標高差を利用して出荷時期を少しずつズラして調整できる山地が最も有利だが、山地には人があまり住んでいない。いたとしても高齢者である。それゆえ競合が増えないのだ。

こうして見ると、ビジネスというのはつくづく「人」と「運」だと思う。
上勝町の「葉っぱビジネス」ではインターンシップ制度を取り入れて、後進の育成にあたっている。10年後にはきっと立派な後継者が育っていることだろう。

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【日本の政治・経済・社会】

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