国民のための社会科

日本の政治・経済・社会

国が異常なまでに「辺野古移設」にこだわる死活的な意味とは何か?

2018年10月1日

「涙の会見」から迷走を続けた辺野古移設問題

沖縄で知事選が行われ、玉城デニー氏が当選した。急逝した翁長雄志氏の遺志を継ぐ人が沖縄県知事となる。
沖縄の政治といえば、誰もが普天間飛行場の辺野古への移設問題を思い浮かべるだろう。ただ、日米地位協定だの、「現実問題、基地で食べている人が多い」という就労問題だの、サンゴに代表される環境問題だの、いろいろな方面に広がり過ぎて、「読めば読むほど、わけがわからなくなる」というのが実情ではないだろうか?
だから、今回、枝葉を切り落として、「本質」だけをクローズアップしてみようと思うのだ。

米軍基地の県外への移設は難しい。中国や台湾など東アジアで何か事が起きたときに米軍が出撃するには、九州や四国、本州からでは遠いからである。沖縄という絶好のポジションに代替が効く場所はない。

しかし、1995年9月、キャンプ・ハンセンに駐留する黒人の米兵3人が12歳の少女を暴行する事件が起きたことから、状況が動き始めた。

1996年2月24日、橋本龍太郎首相はクリントン大統領との会談で普天間飛行場の移転案を切り出した。クリントンは「沖縄の人々の感情を考えながら最善を尽くす」と回答した。
それには背景があった。当時、フィリピンではピナトゥボ山が噴火し、クラーク空軍基地では火山灰や火砕流による被害が予想されたため、兵士や軍属はスービック海軍基地に移ることになり、アメリカは10年間の使用期限延長を望んだ。
しかし、マルコス独裁とつながる反米感情の高まりもあって、フィリピン上院は拒絶。両基地は1991年11月26日、アメリカに返還された。

沖縄まで撤退してはならない、という判断からの譲歩だったのだろう。

普天間飛行場の移設先について嘉手納基地と統合する案が出されたが、アメリカが難色を示し、日本政府はキャンプ・シュワブ内の辺野古沖に海上ヘリポートを建設する案をまとめて、地元に提示した。

続いて名護市で住民投票が行われ、反対が賛成をわずかに上回った。
住民投票には法的拘束力はないが、人々の意思が示されたものとして重要だ。この結果を受けて、名護市長の比嘉鉄也氏が橋本首相を訪問。「移設を容認します。その代わり、私は腹を切ります」と伝えた。橋本首相は涙を流しながらその言葉を聞いた、という。
橋本首相の政務秘書官だった江田憲司氏(現・民進党)は、「人間対人間の極みまで行った交渉だった。内閣の重鎮が、心の底からうめき声をあげて真剣に取り組んだ」と語っている。
比嘉氏は言葉通り、市長を辞任した。昔だったら、本当に腹を切っただろう。

ところが、ちゃぶ台返しが起きた。2009年、民主党(当時)が自民党を破って政権政党の座につき、「最低でも県外、できれば国外」と公約を唱える鳩山由紀夫氏が首相に就任したのである。
鳩山首相は「腹案がある」と語っていたが、そんなものはなかった。迷走の挙句、「学べば学ぶほど、日米同盟の重要さがわかった」と間抜けなことを語り、従来通り、辺野古への移設を進める考えを示した。

これで元に復するかと思いきや、2014年11月、移設容認から反対へ転じた翁長雄志氏が仲井真弘多(なかいま ひろかず)氏を破って、沖縄県知事に当選。強硬に移設反対を打ち出した。

翁長氏の行動原理は、「日本国民の中に(基地は)沖縄に造るのが当たり前だという考えがあるのではないか」という一言に集約されている、と思う。これを責めることは、誰にもできないだろう。

沖縄の米軍基地 沖縄の米軍基地 沖縄の米軍基地

日米安保条約に直結する辺野古移転

では、日本政府はなぜこれほどまで強硬に、辺野古にこだわるのだろう? わかりにくいのはここだと思う。

それは同盟の本質とは、最も深い「信用」だからである。
国と国の関係も、人と人との関係と変わらない。重大な約束を破った相手といっしょに仕事はできない。私の経験でも、支払いを誤魔化して不当に安く済まそうとした会社があった。「調停にして、間に人を立てて話し合いましょう」と出たら、内心では自分に非があることをわかっていたのか折れてきたが、もちろん二度と仕事をするつもりはない。信頼はすでに失われたからである。
まして日米安保条約では、日本人のためにアメリカ人が死ぬ。あなたはあなたとの約束を破った人のために、命を掛けるだろうか?
話し合いで辺野古移転と決めた以上、それは守らなければならないのだ。

もし、アメリカが沖縄から引き上げたら、力の空白が生まれる。その空白には中国が入ってくる。日本人は尖閣諸島が中国の実効支配下に入るのを見るだろう。そうなっては、すべてが遅すぎる。
中国は尖閣を足がかりにして、我が物顔で沖縄周辺を行き来するようになり、公然と資源を採掘し、やがて「沖縄は歴史的に中国に属する」などと言い出すだろう。

先に、フィリピンのクラーク空軍基地とスービック海軍基地の返還について触れたが、この件には後日譚がある。
1991年、フィリピン上院が米軍駐留の条約批准を否決し、翌1992年、米軍は撤退した。「米軍にいなくなってほしい」という気持ちは、沖縄県民と同じだった。
しかし、そのわずか3年後の1995年、中国はフィリピンの支配下にあったスプラトリー諸島(南沙諸島)とミスチーフ礁を占拠。埋め立て工事によって人工島を造成し、滑走路や港湾の整備を開始した。
2014年、フィリピンは米軍再駐留を認める協定に調印した。「痛い目に遭わないと、わからない」ということだが、「今さら」である。

辺野古への移設は、日本という国家にとって死活的に重大だ。元名護市長の比嘉氏は「当事者でない私がいろいろ言うべきではない。ただひとつだけ言えるのは、あの時の決断は決して間違っていなかったということです」と語っている。全くその通りだろう。

翁長氏は亡くなる前に「最後のカード」を切った。翁長氏の前の仲井真知事の時代に出した埋め立て承認を撤回したのだ。ただ、県が公式に承認したものを撤回するのは、あまりにも根拠が弱い。法廷闘争になれば、沖縄県はまず間違いなく敗けるだろう。
国が撤回の執行停止を裁判所に提出すれば工事は継続できるから、時間稼ぎにもならない。翁長氏は敗けるとわかって戦っていた、と言える。
新しく知事となる玉城デニー氏が翁長氏の遺志を継ごうとしても、裁判はほとんど終わっている。この件について玉城氏にできることは、あまりない。

日本政府は、普天間飛行場の辺野古への移設をやり遂げなくてはならない。嫌われても、国民に必要なことをやるのが指導者である。あとは粛々と移転を実行するしかないのである。

最後に余談を少ししよう。県知事選の結果は県民の声として受け止めなくてはならない。ただし、デモ隊の実態については知っておいた方がよい。新聞記事から引用して、紹介する。誰の工作で動いているか、常識的な判断力のある方なら察しはつくだろう。プロが3名も入れば、簡単に動かせる現場だ。

 米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設先となる名護市辺野古地区。ここの昔からの住民の多くは条件付きで移設受け入れを表明しており、テント村を快く思っていない。平成24年3月にはテント村撤去を求めて763人分の署名を名護市長の稲嶺進に提出した。ある女性は眉をひそめた。
 「お年寄り数人のほかはテント村に地元の人はいません。本土(県外)や中南部(那覇市など)から来た人ばかり。それなのに『地元が反対してる』と報道されて迷惑してます。私たちは基地と共存して暮らしてきたんですから。でも本音を言うのは本当に難しい」
 集落入り口には「WELCOME APPLETOWN」の看板。米統治下の昭和30年代、沖縄民政府土地課長で中佐のアップルが中心となり開発したことからこの名がついた。
 そもそもキャンプ・シュワブは翁長が強調するような「銃剣とブルドーザー」で強制接収された基地ではない。地元の久志村(当時)の村長が村おこしとして誘致した。商売や軍用地料収入で恩恵を受ける住民もいる。反基地は決して「県民の総意」ではない。(2015.06.28 産経新聞より)

この記事が役に立ったら、シェアしてください。

著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【日本の政治・経済・社会】

国が異常なまでに「辺野古移設」にこだわる死活的な意味とは何か?

参院選の「定数6増」は、実は野党に有利であることをわかっているか?

名こそ惜しけれ:責任感に欠けた世の中に求められる、関東武士の精神

憲法改正「合区解消」&参院選改革:対応策を洗いざらい整理して明確にしてみた。

森友学園問題とは、何だったのか? その核心に迫る。

東京三菱UFJ・みずほが店舗を大幅削減! ー銀行再編劇から見える資本主義の未来ー

リベラルを継ぐ者は、立憲民主党か希望の党か?

「日本国民はアジアの東、太平洋と日本海の波洗う美しい島々に」〜中曽根康弘元総理の日本国憲法前文を、ぜひ新憲法へ!

衆院選でついに日本最大の格差問題に手をつけるか、安倍政権!?

福田有恒の「1匹と99匹」から考える、左派の本質と改革

国際政治が面白いほど読み解けるマクロな視点から、日本と東アジアを3分で理解する

がんからの生還ー標準治療と高タンパク・高ビタミンの「ハイブリッド作戦」

岩盤規制入門:利権のために国民を犠牲にする権益団体や官僚たちとの戦い

安倍首相が稲田防衛大臣を守り続ける本当の理由とは?

総理が死んだら、誰が自衛隊を指揮するのか?

憲法9条の改正は、第3項の追加が現実的である

日本国憲法が一度も改正されたことがない本当の理由

【最近の記事】

「聖徳太子はいなかった」は、本当か?〜聖徳太子不在論の真実

政治を「祭り事」というのは、なぜか? 歴史を遡り、その秘密を解く!

国が異常なまでに「辺野古移設」にこだわる死活的な意味とは何か?

北方領土についての、これ以上にない「正しい理解」

日本人はどこから来て、どこへ行くのか?ー天皇と神道の淵源を探る

参院選の「定数6増」は、実は野党に有利であることをわかっているか?

移民国家アメリカが移民を拒否したとき、何が起こるのか?

名こそ惜しけれ:責任感に欠けた世の中に求められる、関東武士の精神

北朝鮮の非核化は、ロシアにとって損か得か?

トランプは拉致問題の完全解決を狙っている〜では、日本の今後の対応は?

落ちこぼれから世紀の大品種へ〜コシヒカリの奇跡

新興国中国と覇権国アメリカが衝突〜「トゥキディデスの罠」より危険なものは米中の取引

憲法改正「合区解消」&参院選改革:対応策を洗いざらい整理して明確にしてみた。

中国がアメリカを抜く日は来ない〜習近平独裁政権の前に立ちはだかる苦難

「体制維持」にこだわる金正恩が、本当に怖れているものの正体とは?

Copyright © 「国民のための社会科」 All Rights Reserved.