国民のための社会科

日本の政治・経済・社会

安倍首相が稲田防衛大臣を守り続ける本当の理由とは?

2017年6月29日

稲田朋美防衛大臣は6月27日、東京都板橋区内で開かれた自民党の都議選候補の集会に出席した際、「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」と発言した。
このことをめぐって、野党からは「自衛隊の政治利用だ」と批判の声が上がっている。

稲田大臣については、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣している自衛隊の「日報隠し」問題も起きている。
昨年12月に廃棄を理由に「不開示」とされたが、その後、統合幕僚監部のコンピューター内に保管されているのが見つかり、今年2月7日に発表。野党から追及を受けて涙ぐむ姿を見せた。

3月にも森友学園の裁判に関して「行ったことはない」と述べたが、一転して認め、「記憶違い」と釈明した。

なぜ、こんな頼りない人物を、安倍首相は使い続けるのだろうか?


安倍首相と稲田大臣の出会いは、2005年7月に遡る。当時、安倍氏は小泉純一郎内閣で、自民党幹事長代理をしていた。そして、靖国神社参拝を支持する若手国会議員の会に、弁護士をしていた稲田氏を講師として招いた。
当時、稲田氏は南京問題に関する裁判の弁護人として活躍していた。朝日新聞や毎日新聞などを相手に、名誉棄損の損害賠償と出版差し止めを求める原告側について活動する姿が目に止まったのだ。

同年8月に小泉純一郎首相が郵政解散を断行すると、安倍氏は造反組への「刺客」として稲田氏の起用を思いつき、出馬を要請した。
稲田氏は見事に当選し、さらに民主党(当時)に政権を奪われても再選を果たした。
民主党の一川保夫防衛相が自らを「安全保障の素人」と述べた際には、「自分の役目が分かっているのですか!」と鋭く追及。安倍氏にとしては、自分が市井から見出した人材が颯爽と活躍して、鼻が高かったのだろう。


自民党が政権を奪回し、安倍氏が首相に就任すると、「女性が活躍する社会」を日本経済再生のカギのひとつと考え、女性議員を意識的に閣僚の中に加えていく。その頃には「初の女性首相」を意識し始めたと思われる。

さて、従来「初の女性首相」候補としては、野田聖子氏と小渕優子氏がいたが、野田聖子氏は南シナ海で中国が進める岩礁埋め立てについて「直接日本と関係ない」と発言。小渕優子氏は安倍首相がが靖国神社を参拝して会談を中国側にキャンセルされたとき、中国に理解を示す発言を行うなど、基本スタンスにズレがある。
その点、右派の稲田氏は安倍首相の考えに近い。

さらに野田氏は集団的自衛権の行使容認に疑義を呈したことから、主要ポストから外されて、非主流派に追いやられた。
また、小渕氏は関係する政治団体をめぐる政治資金規正法違反事件で元秘書が在宅起訴され、謹慎の身となった。同時期に松島みどり氏も「政治とカネ」で辞任した。

橋本聖子氏は参議院議員会長だから入閣はないし、今残っている「入閣適齢期」の女性は、丸川珠代五輪大臣と稲田防衛大臣、あとは高市早苗氏くらい。
もう少しいるだろうか?
「女性の活躍」を掲げる安倍政権だが、自民党内に意外と持ち駒が少ないのも、安倍首相が稲田氏を捨てない理由だろう。

なお、今朝、テレビをつけたら、金子恵美氏が保育園の送迎に公用車を使ったという報道もなされていたが、これはマスコミが間違っている。
舛添要一元都知事のように公用車を別荘行きに使えば倫理上の問題になるが、子どもを送ってから議員の仕事に向かうことについては何も問題はない。自家用車で子どもを保育園に送り、家に戻って公用車で出直すのは不合理だ。女性の(正確には男性を含む子育て世代の)社会進出のしやすさの問題になってしまう。


結局のところ、安倍氏には稲田氏が可愛いのだろう。実際、才能のある異性の後輩とは、可愛いものである。変な男女の関係ではなく、大抵の人に覚えがあるのではないだろうか?

では、稲田大臣の器はどの程度のものなのだろうか? 正直言って、私にもわからない。ただ、南スーダンPKO問題で、統合幕僚監部が1ヶ月も稲田大臣に報告しなかったことから見て、自衛隊からは上司としてあまり信用されていないような気がする。「うまくごまかして報告しろよ」というわけだ。

それでも、早咲きの人もいれば、遅咲きの人もいるだろう。これから育つ人なのかもしれない。
また、頭の回転の速さは民進党の蓮舫氏に遠く及ばないが、政治家は回転が速ければよいわけでもない。破壊し、焼き尽くすのは得意だが、ものをつくれない蓮舫氏より、あるいは上かもしれない。それは、よくわからない。

安倍首相としては、野党から批判を受けたからといって簡単に交代させては政権を揺るがす要因になってしまうので、稲田大臣を守る方向で動いているが、守りきれるかどうかはわからない。

安倍内閣自体が、長く続くことで飽きられ、揺らいでいる。先日の加計問題からも、そのことは窺われる。
そもそも愛媛県と今治市が特区での獣医学部新設を提案したのは2015年6月で、今治市が特区に指定されたのは、2016年1月。
この時点では、ほかに名乗りを上げている競合はなく、選択肢は1つしかなかった(京都府と京都産業大が名乗りを上げたのは、すでに決定されたあとの2016年3月)。
本来は火事になる局面ではないはずだが、小疑獄事件と言えるようなものに発展したのは、政権の勢いの衰えを反映している。
次の内閣改造で稲田大臣を残すかどうかも、思案のしどころとなるだろう。

この記事が役に立ったら、シェアしてください。

著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【日本の政治・経済・社会】

国が異常なまでに「辺野古移設」にこだわる死活的な意味とは何か?

参院選の「定数6増」は、実は野党に有利であることをわかっているか?

名こそ惜しけれ:責任感に欠けた世の中に求められる、関東武士の精神

憲法改正「合区解消」&参院選改革:対応策を洗いざらい整理して明確にしてみた。

森友学園問題とは、何だったのか? その核心に迫る。

東京三菱UFJ・みずほが店舗を大幅削減! ー銀行再編劇から見える資本主義の未来ー

リベラルを継ぐ者は、立憲民主党か希望の党か?

「日本国民はアジアの東、太平洋と日本海の波洗う美しい島々に」〜中曽根康弘元総理の日本国憲法前文を、ぜひ新憲法へ!

衆院選でついに日本最大の格差問題に手をつけるか、安倍政権!?

福田有恒の「1匹と99匹」から考える、左派の本質と改革

国際政治が面白いほど読み解けるマクロな視点から、日本と東アジアを3分で理解する

がんからの生還ー標準治療と高タンパク・高ビタミンの「ハイブリッド作戦」

岩盤規制入門:利権のために国民を犠牲にする権益団体や官僚たちとの戦い

安倍首相が稲田防衛大臣を守り続ける本当の理由とは?

総理が死んだら、誰が自衛隊を指揮するのか?

憲法9条の改正は、第3項の追加が現実的である

日本国憲法が一度も改正されたことがない本当の理由

【最近の記事】

「聖徳太子はいなかった」は、本当か?〜聖徳太子不在論の真実

政治を「祭り事」というのは、なぜか? 歴史を遡り、その秘密を解く!

国が異常なまでに「辺野古移設」にこだわる死活的な意味とは何か?

北方領土についての、これ以上にない「正しい理解」

日本人はどこから来て、どこへ行くのか?ー天皇と神道の淵源を探る

参院選の「定数6増」は、実は野党に有利であることをわかっているか?

移民国家アメリカが移民を拒否したとき、何が起こるのか?

名こそ惜しけれ:責任感に欠けた世の中に求められる、関東武士の精神

北朝鮮の非核化は、ロシアにとって損か得か?

トランプは拉致問題の完全解決を狙っている〜では、日本の今後の対応は?

落ちこぼれから世紀の大品種へ〜コシヒカリの奇跡

新興国中国と覇権国アメリカが衝突〜「トゥキディデスの罠」より危険なものは米中の取引

憲法改正「合区解消」&参院選改革:対応策を洗いざらい整理して明確にしてみた。

中国がアメリカを抜く日は来ない〜習近平独裁政権の前に立ちはだかる苦難

「体制維持」にこだわる金正恩が、本当に怖れているものの正体とは?

Copyright © 「国民のための社会科」 All Rights Reserved.