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日本の政治・経済・社会

日本国憲法が一度も改正されたことがない本当の理由

2016年07月11日

安倍内閣の下で、憲法改正の準備が進められている。憲法改正には次のものが必要になる。

1.衆議院の総議員の3分の2以上の賛成。
2.参議院の総議員の3分の2以上の賛成。
3.国民(有権者)の過半数の賛成。

この条件がいかに厳しいか、外国と比較してみよう。
憲法学の権威である西修氏によれば、先進国から成る経済協力開発機構(OECD)加盟34カ国で、憲法改正の際、国民投票を必要とする国は、日本以外にわずか5カ国しかない、という。
しかも、このうち4カ国の議会の国民への発議要件は、過半数(デンマーク、アイルランド、オーストラリア)あるいは在籍議員の3分の2以上(韓国)であり、総議員の3分の2以上としている国は皆無である。
残るスイスは、全部改正と一部改正とで手続きを異にし、国民発案も採用していて複雑であり、いずれの場合も国民投票にかけられるが、これまでに何回も憲法は改正されている。
前憲法(1874年採択)は1999年までに約140回も改正され、2000年1月1日から施行されている新憲法も12年3月までに25回の改正が重ねられている。(「産経新聞」2013.4.1による)

日本の憲法改正のハードルが高いのは、アメリカが日本から牙を抜くために与えたものであるからだ。憲法を勝手に変えて再軍備することがないように「まず不可能」という条件を設定したのである。
そこで安倍首相は「改正の手続きを規定する96条の改正から」と考えているわけだが、本来、96条もまた憲法の一部である以上、改正のためには上記の条件を満たさないとならないはずである。
その緊縛を解くための特別措置をとりたいのであれば、「改正できないように設定された改正条項は、本来無効である」という論理的な正当性に立ち返っていけば手続き的正義を得られるかもしれないが、かなり難しいだろうと思う。


外国では憲法改正は珍しいことではない。西修氏によれば、ノルウェー憲法などは1814年に採択されて以来、すでに200回以上改訂されているという。
では、なぜ日本国憲法は改正されないのだろうか? 「改正の条件が厳しいから」というのは、実は表面的な理由に過ぎない。本当の理由は、日本人は民主主義を完成されたものと思い込んでいるからなのだ。

民主主義は中世ヨーロッパで、絶対王権に対する民衆の闘いの中から生まれてきた。ゆえに西欧人にとって、民主主義は我が手で闘って得るものである。
民主主義を守ろうと思えば、より理想的な状態をめざして努力を続けていかなければならない。考えてみればごく当たり前のことだが、時代が移れば政治・経済・社会の状況は変わっていく。変わっていく状況に合わせて、政治運営も変わっていかなければならない。場合によっては、武器を持って立ち上がらないとならないこともあるかもしれない。
ゆえに民主主義に完成はない。

変わっていく状況に対応できるように一般の法律は変えるのに、憲法だけは変えないのはおかしな話だ。そんなおかしな話がまかり通るのは、「マッカーサー元帥がよい教えをもたらしてくださった。ありがたや、ありがたや…」と受け入れた歴史があるためだ。完成などあり得ないものを完成されたものと取り違え、日本国憲法を民主主義を体現した「聖典」としてしまったことに、今日の日本の悲喜劇がある。

護憲論者というのは、製品の改良をしないメーカーに似ている。時代が移れば人々の好みも変わり、原材料そのものも変わっていくのに、何も変えようとしない人々である。会社なら倒産で済むが、国家はそうはいかない。
現在の日本国憲法には、おかしな箇所がかなり多い。たとえば、小室直樹がその著書で指摘してきた例を紹介すれば、総理大臣が暗殺され、国会と天皇との間を分断された場合というものがある。現在の憲法では、総理大臣が空位になれば、次の後継者が指名されるまで、日本の行政がストップしてしまう。
悪意ある侵略者が天皇を抑えてしまえば、国会が機能しても天皇が総理大臣を任命することはできない。総理大臣がいなければ、自衛隊の最高指揮をとる者もいない。侵略者のやりたい放題となってしまう。非常の際の指揮権の設定は、やはり必要だろう。

総理大臣の長期不在は、実際に起きたことがある。
1980年(昭和55年)6月12日、総選挙のさなか、大平正芳首相が心筋梗塞で亡くなった。ほかの国なら副総理が総理大臣になって当面の指揮をとるが、すでに衆議院は解散され、首相を指名するための国会を開くことすらできない。次の鈴木善幸内閣が発足するまでの35日間、日本は何もできずにいたのである。
もしもこの間に中国が日本に対して軍事行動をとったり、大震災や原発事故が起きたりしたら、どうするのだろうか?
日本国憲法については、さまざまな欠陥が指摘されている。日本国憲法を、ひいては日本をよくするためにやらなければばらないことは、まだまだたくさんあるのである。


民主主義は完成された制度ではない。永遠に未完成で、それゆえに常によりよい状態をめざして努力すべきものだ。
憲法にもまた、完成形というものはない。改善に改善を重ねるべきものだ。
だからこそ、憲法改正は必要なのである。

【補記:自民党の改正案について】
日本国憲法が「金属疲労」のような状態に陥っており、改正が必要になっていることは間違いない。だからといって、自民党の憲法改正案も粗雑に感じる。憲法の本質は国民がひどい目にあわないよう、国家権力を縛ることにあるが、国民の権利を縛る方向へ偏っている。私は改憲論者だが、変えればいいというものではない。
さしあたり憲法9条について、具体的にはどのように修正するのが適切なのか、次のページで述べたいと思う。
憲法9条の改正は、第3項の追加が現実的である
また、中曽根康弘元総理の格調高い憲法前文草案は、舛添要一らの手によって、世にもくだらない作文に書き換えられてしまった。ぜひ、この美しい原文を読んで頂きたい。
「日本国民はアジアの東、太平洋と日本海の波洗う美しい島々に」〜中曽根康弘元総理の日本国憲法前文を、ぜひ新憲法へ!

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

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