国民のための社会科

日本の政治・経済・社会

リベラルを継ぐ者は、立憲民主党か希望の党か?

2017年10月15日

小池百合子氏の「排除」は、正当な判断

民進党という船が沈んだ。そして、小池百合子氏が新しく創設した希望の党へ移籍可能かどうかを、「憲法改正や安保法制への賛成」などを踏み絵として、賛成しない人物を排除した。
これに対して、「全員を受け入れるべきだ」「排除はひどい」という声が、枝野幸男氏をはじめとする民進党系議員から多数上がった。

ふざけんな!

政党とは、基本的に同じ考えを持つ人間の集まりである。民進党が沈んだのは、左派を中心に中道派もいれば右派もいるという、デタラメな寄り合い所帯であったことが一因だ。小池氏の選り分けは、当然である。

そもそも船が沈んだのは、乗組員がダメだったからである。船を替えても乗組員が全員同じなら、また沈むだろう。

結局、枝野氏は希望の党に入れてもらえず、立憲民主党を建てた。窮余の策であったが、国民の目には「筋を通した」と映った。人間万事塞翁が馬。何が幸いするか、わからない。

希望の党へ移った議員たちは、「昨日まで憲法改正や安保法制に反対していたのに、一夜明けたら賛成にまわった」として信用を失ったのに対し、考えを変えなかった議員には、それなりに評価が集まっている。

「リベラル」という言葉に感じる違和感

こうした状況下、民進党系の議員の口からしきりに「リベラルの力」「リベラルの価値」という言葉が発せられている。しかし、私は大きな違和感を感じるのだ。

というのも、リベラルは「自由主義」と訳されるが、これは「自由気ままに旅に出よう」の自由ではない。お互いに自由であるために「他者に対する公正さ」を正義の基準とする政治思想である。その点、左派の言論は、どう見ても公正さを重んじているとは思えないからだ。

リベラルの原点と本質

リベラリズムは、ヨーロッパにおける血で血を洗う宗教対立への反省から、自分と意見が異なる相手の存在を認める「寛容」として出てきたものだった。
だから、リベラリストたちは、どんなに意見が異なり対立する相手であっても、フェアであることを政治上のルールとする。そして、その中にこそ、法の支配や立憲主義の基礎を位置づけてきた。

たとえば、アメリカに日本を守ってもらうなら、日本もせめて武器や食料くらい運ぶのが、リベラルである。ところが、日本の自称リベラルは、「アメリカに守ってもらうのは当然だが、日本が武器や食料を運ぶのは反対だ」と言う。子どものようなご都合主義だ。

外国の「リベラル」とは?

世界では、どのような政党をリベラルと言うのだろうか?

アメリカでは?

第二次世界大戦の数年前、世界恐慌を克服するため、アメリカのルーズベルト大統領は、政府が積極的に市場に関与するニューディール政策を行なった。平たく言えば、ドル札を大量に刷って銀行を通じて市場に流通させ、経済活動を刺激して、景気の向上を図ったのである。
この政策により、アメリカの景気は回復したが、一方で経済的な不平等が広がり、その是正をする理念としてリベラルが登場した。社会的弱者を守るとともに、言論の自由やマイノリティの権利重視や福祉を掲げ、やがて民主党に取り込まれていく。

これに対し、保守派は政府の権限を民間や地方に分散させ、「小さな政府」によって経済の自由や活性化させることや、アメリカが築いてきた文化を維持することを基本としている。保守主義を掲げる姿勢は、共和党に受け継がれた。

ただし、少し考えればわかると思うが、保守とリベラルは対立する概念ではない。
民主党の中にも保守的な議員もいるし、共和党の中にもリベラルな議員もいる。この場合のリベラルとは、人種のるつぼであるアメリカにおいて、「異なる宗教や文化を持つ人々を互いにフェアとする中立性を支持している」というほどの意味である。
民主党もまた現実に責任を持って取り組んでおり、「この戦争は必要だ」と判断すれば、共和党以上の正義感を持って、外国への介入を行う。

何となく、日本の自民党と左派の対立軸をアメリカの共和党と民主党に投影して、「なぜ、民主党が戦争に積極的なの?」と疑問を抱く人がいるが、全く関係ない。
ちなみにトランプ大統領は、保守でもリベラルでもない。衰退する大国の延命と復権に取り組む現実主義である。

ドイツでは?

ヨーロッパでは、ドイツの例がわかりやすい。
西ドイツと東ドイツに分かれていた時代の1959年、西ドイツの社会民主党が、国防の肯定や市場経済の承認などを打ち出し、共産主義との決別を宣言した。社会民主党はヨーロッパの伝統的な社会主義運動の流れを汲むもので、共産主義の方が後発だった。
西ドイツではソ連が身近な脅威としてあり、崩壊後は反面教師にもなった。そのため自らの思想に検証と修正を重ねて、現実的な政権担当能力を持つに到った。この社会民主主義は、アメリカの民主党に一脈通じるものがある。

彼らは自らをリベラルと呼ぶ。そういった影響もあって、日本では左派が自らをリベラルと呼ぶようになったのだが、「何か違うんじゃないの?」という疑問は拭い去ることができない。

日本のリベラルの経緯と発展

戦後の状況

戦後、日本では、自民党に代表される「保守」と、社会主義に共感する「革新」が対立した。
社会主義や共産主義は現在の北朝鮮を見ればわかるように、強力に監視束縛された階級社会である。にもかかわらず、当時の知識人の多くは、マルクス主義に対して「地上の楽園」という憧れに似た感情を抱き、体制に批判的な政治思潮を形成していった。
これは、ソ連・中国・北朝鮮のエージェントによる対日世論工作の影響が大きいと思われる。
実際、安保運動に火をつけた東大生・樺美智子氏の死については、デモの混乱の中、後ろから撲殺された瞬間が目撃されており、おそらくKGBによる犯行であろうと推測されている。

ただし、当時、リベラリズムは日本では受け入れられなかった。左派は「リベラリズムの福祉政策は、資本家階級を温存するだけだ」と批判し、右派は「個人主義や普遍的な価値にこだわるリベラリズムは、歴史や伝統を無視する根無し草だ」と叩いた。

リベラルが受け入れられた冷戦終結後

風向きが変わったのは、1990年代である。1989年12月に、ソ連のゴルバチョフ書記長とアメリカのブッシュ大統領(父ブッシュ)が冷戦の終結を宣言すると、保守と革新の融和が進み、自民党と社会党の議員が共同で「リベラル政権を創る会」を結成した。これがのちに、自民党が社会党の村山富市委員長を首相とする村山政権を生み出すことになった。
自民党と社会党が組むなんて、今日から見ると奇妙な事態だが、ゴルバチョフとブッシュの握手を背景とすると、理解しやすい。

さらに、自民党の宮沢喜一首相や後藤田正晴副総理、河野洋平総裁といった護憲派は、「保守リベラル」を自任するようになった。
一方、社会党や社民党が結成されたときも、「リベラル勢力の結集」が合言葉となった。

こうして見ると、リベラルという用語は、自民党でも左派政党でも使われてきたことがわかる。ちなみに、宮沢喜一氏の流れを汲む岸田派は、今でもリベラルを名乗っている。

リベラル

日本の左派は「リベラル」か?

ここで話を最初に戻そう。民進党や立憲民主党は、本当にリベラルなのだろうか?

リベラルを装った左派

1990年代、自民党が行財政の改革を牽引していく中、ソ連崩壊により存在する根拠を失い、埋没の危機に直面していた小政党の議員が集まり、1996年、民主党(民進党や立憲民主党の前身)を結成した。
このときも「リベラル勢力の結集」が合言葉となったが、政治理念としてのリベラリズムとは関係がない。「左翼」では言葉として古すぎ、かつてのように「革新」と言う自信はなかったため、何となく体裁のよい、リベラルという横文字を持ってきたに過ぎない。
結局、民主党はいったんは政権を取ったものの、馬脚を現して転落した。

今回(2017年10月)の衆議院総選挙に際しても、「リベラル」という言葉が飛び交っている。しかし、その実態はと言うと、印象操作によって安倍政権の足を引っ張るだけで、言論と言論を真っ向から戦わせるものではない。「他者に対する公正さ」を正義の理念とするリベラリズムに反している。こんなものをリベラルと呼んだら、世界中のリベラリストたちが怒るだろう。

左派の未来

今後の左派勢力の行方は、見えている。枝野氏が建てた立憲民主党は「筋を曲げなかった」という点で、現在は小さなブームを起こして支持を集めているが、共産主義の挫折で存在価値を失った事実は変わらない。
主張すべき中身がないので、民主党が政権にあった時代に自分たちで消費税を10%に上げたくせに、「ただちに10%に引き上げることはできない」などと主張している。「どうせ国民は忘れているだろうから、不利なことは黙っておこう」という魂胆が見え見えだ。
また、「安倍独裁」などと言う。安倍政権は正当な選挙を経て成立したものであり、「独裁」にはあたらない。「安倍一強」と言うべきだろう。これもまた、アンフェアな印象操作であり、公正さを重んじるリベラルの精神に反している。

こういったウソに相当な効果があるのは、事実である。しかし、それに慣れてしまうと、いつまでも「大人」になれない。それは身にまとうオーラとして顕れ、有権者に察知されてしまう。責任感を持たずに生きている人が、社会で人から信用されないのと同じである。

今後を予測すれば、立憲民主党は個人の権利や生活の重視を主張し、福祉の充実や社会的弱者の救済を目指すと思われるが、その程度のものは自民党の政策に吸収されてしまう。ゆえに年数が経てば、衰退していく。かつての社会党や社民党と同じ流れをたどるだろう。
民進党再結集案も浮上しているが、すでに立ち枯れた政党だ。根の近くから細い枝が出ることはあっても、成長することはない。

「可能性」があるのは、希望の党だが…

希望の党には信用がないので、失速気味だ。衆院選の議席も、かなり限定された数に留まると思われる。しかし、その本質的な理念は「リベラル保守」であり、アメリカの民主党に近い政党に成長する可能性を秘めている。
根無し草ではないのだがら、ハードルを乗り越えれば、自民党に次ぐ第2の政党へ成長することは不可能ではない。ただし、小池氏が独裁する蜘蛛の巣のようなもので、小池氏がいないと瓦解する。弱兵が多く、とくに元民進党員が心根を入れ替えない場合は、自民党の前に存在感を失い、消え去ることになるだろう。

希望の党 飛躍のカギは、リベラリズムにあり!

選挙演説を聞く限り、小池氏は「自民党のしがらみ政治から脱却を!」と主張し、元民進党議員は「安倍政治を終わらせよう!」などと叫んでいる。これではダメだ。
安倍政治の価値を正当に評価してこそリベラルであり、それを踏まえた上で安倍政治にできていない点を突いてこそ、本当の意味で有権者に届く。

私なら、こう言う。

「安倍さんは外交も内政も、確かに凄いです。しかし、見落としていることも、たくさんあります。
例えば、政府は市場にお金をバラ撒いて、経済を上向かせようとしています。しかし、1200兆円ものお金が銀行やタンスの中に眠っており、お金は最初から市場にあるのです。それが出てこないのは、低欲望社会となっていることや、国民が生活に安心感を持てないことが原因です。
グローバル社会ではお金をバラ撒いても、海外へ流出してしまいます。今のような政策で経済を上向かせるのは、限界に来ています!
また、憲法改正は大切ですが、自民党案は決して出来がよくありません。叩き直しが必要です!」

選挙演説としては、レベルが高いかもしれない。
しかし、自民党政治をきちんと評価した上で、その不備を埋めることが今の日本に求められているのであり、リベラリズムの理念に則って真摯に取り組めば、それは伝わると思うのだ。

<補記>
世界全体で経済成長を求めるのは、限界に来ている。安倍首相はグローバル主義を取るが、近い将来、東京オリンピックあたりを境に、グローバル主義から国家間多様主義へ転換していく必要があるだろう。
では、具体的にアベノミクスからどんな経済政策へ転換すべきかというと、実は私にも見当がつかない。安倍内閣が非常に難しい問題に取り組んでいるのは、事実である。
いずれにせよ、今後は多くの国にとって、天井に来たグローバル主義からの脱却がテーマとなるだろう。

<補記の補記>
2018年5月7日、国民民主党が発足した。しかし、その内容は、多くの人が人が感じているように、理念も何も関係なく、どうしようもない。いくらかは期待をこめてこの記事を書いたのだが、残念な人たちである。国会議員を辞めて、別な職業についた方がよいのではないだろうか?

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

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