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日本の政治・経済・社会

舛添要一東京都知事問題から地方自治について学ぶ

2016年06月13日

舛添要一氏への批判が止まらない。2013年・2014年の正月に千葉県内のホテルに家族とともに宿泊した際、ある出版社社長を部屋に招いて政治的な会議をしたなど、あまりに不自然な言い訳を連発しており、どう見ても公金を横領している可能性が高いと思われるからだ。

舛添氏は返金や給与削減案を示して、延命に必死だ。それはそうだろう。曲がり並みにも都知事としての地位を保てるか、みじめに消えていくかの瀬戸際だからだ。
都知事を辞めたら、ただの失業者となる。もはや学者としてどこかの大学で雇ってもらうのも難しいし、政治評論を書いても出してくれる出版社はない。「あの日」というようなタイトルの回顧録なら、売れるかもしれないが(笑)。

なお、「違法とは言えないが、適切ではない」という見解がまかり通っているが、これは舛添氏側の弁護士が言い出したもので、ダメージを最小限に抑えようというディスインフォメーションである。そもそもネコババが犯罪でないはずがなかろう。これは、私物化したことがバレると裁判にかけられて罪に問われるので、何とか「経費」ということで押し通し、「違法ではない」と結論づけて、逃げ切ろうという腹なのだ。

たしかに元都知事という立場上、法的には政治資金規制法扱いとなって、これ以上追い込むことは難しいが、一般社会で言えば、会社員が会社の金を横領する横領罪や、会社の備品を私物化する窃盗罪に問われる問題である。世界に冠たる大都市の首長がコソドロの窃盗犯というのは、あまりにも情けない。

さて、今回は地方自治の勉強をしてみようかと思う。私の仕事のひとつに中学校の授業で使う公民の資料集づくりがあるが、この辺はやや退屈なところで、誌面を面白くするのに苦労する。しかし、こういうホットな問題が起こったので、多少は興味関心を持って頂けるかもしれない。

住民の署名をもとに強く要求する「直接請求権」

地方自治体の住民は、さまざまな権利を持っている。

◎条例の制定や改訂・廃止:有権者の50分の1の署名があれば、請求できる。条例の制定については首長に請求する。
◎監査の請求:監査委員に請求すると、監査委員は監査を行って公表し、議会と首長に報告しなければならない。有権者の50分の1の署名が必要。

条例については議会で否決されればおしまいだが、たとえ否決されても、賛成か反対か、首長と各議員の考えをはっきりさせることができる。それは、次の選挙で議員を選ぶ重要な材料になる。
住民としては、大きな「学び」の機会となるわけだ。
では、肝心の首長の解任についてはどうか?

◎首長や議員の解職:有権者の3分の1以上の署名を取り、選挙管理委員会に請求して住民投票を行い、過半数の賛成があれば解職される。
◎副知事・副市町村長・委員の解職請求:有権者の3分の1以上の署名をもとに首長に提出する。そして、3分の2以上の議員が議会に出席し、その4分の3以上の同意があれば、解職される。
◎議会の解散:選挙管理委員会に請求を出して住民投票を行い、過半数の同意があれば議会は解散される。

舛添氏がどうしても都知事の椅子にしがみつく場合、直接請求権を行使して住民投票に持ち込むには、何人の署名が必要だろうか?
基本的には有権者の3分の1以上だが、人口の多い自治体の場合、3分の1は困難なので別に規定がある。

【地方自治法 第八十一条 】
選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の長の解職の請求をすることができる。

総務省のデータを大雑把に四捨五入し、東京都の有権者数を1000万人として計算してみよう。すると、
◎(1000万人ー80万人)÷8=115万人
◎40万の6分の1: 6万6667人
◎40万の3分の1:13万3333人
<計>135万人

有権者135万人の署名を集めれば、住民投票を行うことができるわけだ。たとえば、ハガキサイズの紙の表に「舛添要一を辞めさせる会」の住所を印刷し、裏に署名をして返信してもらえるようにしたものをポスティング業者に協力してもらい、都内の家庭や会社に配布する。そして、料金後納郵便とするか、50円切手を貼ってもらうことにして、印刷その他の諸費用はスポンサーを探すか、募金で賄う。
電子メールが有効かどうかはビミョーが、数を集めてマスコミで報道してもらえば、役所も無視はできまい。これならフェイスブックやツイッターで呼びかければ済むので、費用もかからず、気軽である。

住民が役所にお願いする「請願権」

請求権を正面の少し高い位置からの要求とすれば、下手に出るものが請願権である。請願権も請求権のひとつだが、役所としては要求通りにしなくてもよい。それでも何がしかの意思を伝えることができる。
請願には請願と陳情の2つがある。知り合いや「つて」をたどって議員に紹介してもらって書面を提出する場合は請願となり、議員を通さない場合は陳情となる。公民の資料集を改定する際、請願と陳情の区別について東京都に聞いてみたことがあるが、「請願はこの制度が制定されたときに議員の仕事として位置づけたもののようで、陳情と区別した理由はすぐにはわかりません。実質的な差はありません」とのことだった。
議員がいた方がやや有利になるような気はするが、現場の方の話を聞く限りでは、無理に議員に渡りをつけず、陳情書を書いて提出しても、それほど扱いは変わらないだろうと思われる。

請願と陳情については委員会で審査して採択か不採択かを決め、採択の場合は議会で審議を行い、結果を提出者に知らせることになっている。しかし、「持ち帰り案件」として審議もせずに廃案とする役所も多いので、できるだけ署名を集めた方がよい。万単位の署名があれば、無視しにくくなるからだ。

ただし、請願権のことを知らない人も多いし、知っていても手っ取り早さを求めることから、請願や陳情を出さず、直接、行政に働きかける人も多い。これもまた方法のひとつだろう。

今回の場合、請願または陳情によって舛添氏の解職を求めるのも手であるが、議会はすでに舛添氏を追及しているので、大きな意味はないだろう。それでも何十万人くらいの単位で署名を集めてマスコミに報道してもらうなどすれば、さらに「圧力」をかけることはできるだろう。

住民の意思を示す「住民投票権」

地方自治体の住民は、地域の重要な問題について、住民投票を行う権利を持っている。先に記したように首長・議員の解職、議会の解散請求では過半数を獲得すれば、解職・解散の要求が通る。また、地域の特別法をつくるときは住民投票を行い、過半数の賛成があれば成立する。
さらに大きな問題について住民の意思を問うことで、地方公共団体に自分たちの要望を強く示すことができる。

過去に行われた住民投票の例としては、次のようなものがある。

◎原発建設の是非を問う(新潟県巻町|現在は新潟市に併合/1996年):反対が6割を占め、建設は断念。
◎在日米軍再編に伴う空母移転受け入れを問う(山口県岩国市/2006年):反対が9割を占め、市長が受け入れ反対を表明。
◎大阪市の廃止と特別区の設置を問う(大阪府大阪市/2015年):反対が賛成をわずかに上回り、大阪都構想は断念。

ちなみに住民投票の年齢等の資格は、それぞれの地方公共団体の条例で制定してよいことになっている。たとえば2003年5月に長野県平谷村で市町村合併の是非を問うたときには、12歳以上から住民投票に参加し、反対多数で合併は否決された。この年齢で正しい判断ができるかどうか疑問視する声もあったが、将来を担う子どもたちに地域の未来を考えてもらう機会にはなっただろう。判断力は未成熟なものであろうが、大人であれば正しい判断力があるとも限らない。賛否両論があるだろう。

国政に比べると、地方自治はグッと身近感がある。今回は東京都の問題だが、都民を超えて広く全国の人々の興味関心を触発している。身近な課題を通じて住民が政治に触れるという意味で、地方自治が果たす役割は大きい。
今回、もし舛添氏が議会の追及から逃げ切るようであれば、解任を要求すると面白いことになるだろう。署名集めは住民に行政の課題や問題点を認識してもらって同意を得ていく作業であり、首長や議会任せにせず、主権者として直接、地方自治にかかわる地道な活動である。

地方自治は「民主主義の学校」とも言われる。舛添問題をきっかけに、行政について学び直してみるのもよいだろう。

<後記>
都民の方が動くまでもなく、自民党を含む全会派が不信任を表明した。
首長の不信任に関する議会では3分の2以上の議員が出席し、4分の3以上の同意が得られれば不信任案は可決されるが、舛添氏の失職は確実の見通しとなった。

不信任案が可決されれば、知事は10日後に失職する。しかし、対抗手段として議会を解散することもできる。これは首長と議会が牽制し合えるようにしてあるためである。
議会を解散しても、選挙を経て成立した議会が再び不信任案を可決すれば、知事は10日後に失職し、この場合、失職は決定的となる。

議会を解散すると政治的空白が生まれ、余計な費用がかかって、さらに批判を浴びることになるので、さすがに都知事の席を明け渡すしかないだろう。

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

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