国民のための社会科

日本の政治・経済・社会

参院選の「定数6増」は、実は野党に有利であることをわかっているか?

2018年6月19日

「1票の格差」を是正するための苦肉の策だが…

参院選の定数増については、私はすでに記事をアップしてあるので、もう書くつもりはなかった。
しかし、週刊東洋経済の記事、参議院「定数6増」はいくらなんでも酷すぎるを読んで、「あの定評ある東洋経済でさえ、理解できていないのか?」と思い、もう1回だけ語ることにした。
右でも左でも、そこはスタンスの差だからどちらでもよいが、浅過ぎる。少し、まともな議論をしようじゃないか?

参議院の総定数6増は、来年の参院選から適用される。
その意味は、次のようなことである。

1.「1票の格差」は、是正しなければならない。
2.そのため、議員1人あたりの有権者が最も多い埼玉選挙区を2増やす。これにより選挙区の「1票の格差」は、3倍以内に抑えられる。
3.比例区を4増やす。かつ「鳥取・島根」「徳島・高知」の合区により選挙区から出馬できなくなる候補を救済するために、党があらかじめ決めた順位に従って当選する拘束名簿式にすることを認める。

「1」に反対する人はいないだろう。「機会の平等」は民主主義の大根幹である。
「2」も理解を得られると思う。問題の大きなところから手をつけるのは、当然だからである。ほかに「もっと抜本的に改革すべきだ」という声はあるが、この件はあとで触れる。

わかりにくいのは「3」だろう。その意味は、次のようなことである。

1.「1票の格差」は、是正しなければならない。
2.そのため、議員1人あたりの有権者が少ない選挙区を合区にする。
3.しかし、合区にすると、「鳥取・島根」「徳島・高知」の場合、鳥取もしくは島根、徳島もしくは高知の候補者のどちらかが選挙区から出られない。
4.現在の行政は都道府県単位で動いているので、空白になる県では、県の世話役を行い、国と県のパイプ役をする人物がいなくなってしまう。その弊害が大きい。
5.そのため比例区を増やして救済したいが、現在は候補者が得た個人名票順であり、この方式だと救済できるとは限らない。
6.ゆえに党があらかじめ決めた順位に従って当選する拘束名簿式にすることを認める。
7.比例区を増やすのには、定数増により「1票の格差」を縮める意味もある。

…というものだ。
決してスマートではない。身内の小泉純一郎元総理からも「わけわからん」と批判されているくらいである。

さて、定数6増への批判として多いのは、「やるなら、もっと抜本的にやるべきだ」というものだろう?
たしかにそれは言える。定数増によって「1票の格差」を全解消するには、議員を50人ほど増やさなければならないからだ。6増では全く足りない。議員の給料として歳出も増えるが、金の使い方としては中途半端である。
ただし、お聞きしたいが、「抜本的」とは、具体的には何をどうするのか?
上記の過去記事に書いたことから抜き出せば、たとえば次のようなアイデアとそれぞれ問題点がある。

<例>

A:参議院の比例代表を廃止し、選挙区のみとする。
→選挙区に弱くて、比例代表でやっと1名か2名の議員を国会へ送っている弱小政党が壊滅してしまう怖れがある。

B:参議院をすべて比例代表にする。
→たとえば、比例代表では知名度のあるタレントなどを立てて、総得票数を上げようという動きが活発化する。

C:全国を複数のブロックに分ける。
→地域が広くなると、選挙の際、候補者が遊説したり、議員が話し合いや視察に行くのに苦労する。2県の合区でさえ、候補者たちからは「県庁所在地すら、1回しかまわれなかった。合区はこれが最後にしてもらいたい」と声が上がった。
そもそも、このレベルの改革となると、「日本を連邦制国家にするのか?」という国家構想の問い直しが必要だ。

これ以外では、自民党の言う「憲法改正による解決」くらいしか、現実には方法がない。それにはまだ時間がかかる。
今回の6増は、いわば「つなぎ」なのである。

世の中のあらゆる事項に共通するが、問題を解決できないときは、軽減することを考えなければならない。自民党案はこの原則に即したものとして評価できる。


実は野党に有利になる改革!

野党は「党利党略だ!」と批判しているが、いろいろな意味で違うと思う。

今回、とくに立民は党の考えを示すのが遅すぎた。法案でも改革案でも、きちんと考えれば自分なりの考えはできるはずであり、それを軸とすることなしに本当の意味の批判はできない。だから「反対のための反対」になってしまい、「もう、いい加減にせいや」と有権者から呆れられてしまった。

「1票の格差は許せないが、小改革はダメ。憲法改正による抜本的な改革もダメ。その他の改革案に関する自分の党の考えはない」では、あまりにもひどい。ようやく「福井・石川の合区新設」といった案を示したが、気づいた人の方が少ないだろう。悪くない考えだが、あまりにも遅く、あまりにも取ってつけた感じで、議論の流れに載せられなかった。「何もしなかった」という批判をかわすだけのものだ。
この体たらくで「自民の党利党略」と言う資格はないだろう。

それに、本当に自民党に有利かというと、それは逆で、むしろ野党に有利であろう。埼玉選挙区の定数が増えれば、これまで次点で落選していた候補が当選することになるが、この位置にはおおむね旧民主党や共産党の候補がいる。つまり恩恵を受けるとすれば、野党になる確率が高い。
その証拠に、選挙区の増加分については、「身を切る改革」を掲げる日本維新の会や希望の党を除く野党から批判はなかった。また、比例代表では選挙区に比べて「死に票」が出にくく、これも少数野党に有利である。
だから、彼らが批判したのは特定枠の部分である。しかし、自分に有利な部分はのうのうと受け取って、そうでない部分だけクローズアップして、「党利党略だ!」と騒ぐのは公正でない。自分の党に不利になることをわかっていて、改革を進める自民党の方が大人だろう。

急がずに次回の国会でじっくり議論した方がよかったという考えもあるだろうが、この国をめぐる課題は山積みであり、問題はどんどん処理しなければならない。
繰り返すが、今回の改革はあくまで「つなぎ」である。そもそも大都市への一極集中が続く中で定数を6増やしても、いずれ追いつかれる。根本的な解決は、憲法改正ということになるだろう。

とれはともかく、今回の定数増の話は難しいことは確かであるが、筋道を立てて追っていけば、理解は可能である。
この件について深く掘り下げたい方は、憲法改正「合区解消」&参院選改革:対応策を洗いざらい整理して明確にしてみた。をお読み頂きたい。

この記事が役に立ったら、シェアしてください。

著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【日本の政治・経済・社会】

国が異常なまでに「辺野古移設」にこだわる死活的な意味とは何か?

参院選の「定数6増」は、実は野党に有利であることをわかっているか?

名こそ惜しけれ:責任感に欠けた世の中に求められる、関東武士の精神

憲法改正「合区解消」&参院選改革:対応策を洗いざらい整理して明確にしてみた。

森友学園問題とは、何だったのか? その核心に迫る。

東京三菱UFJ・みずほが店舗を大幅削減! ー銀行再編劇から見える資本主義の未来ー

リベラルを継ぐ者は、立憲民主党か希望の党か?

「日本国民はアジアの東、太平洋と日本海の波洗う美しい島々に」〜中曽根康弘元総理の日本国憲法前文を、ぜひ新憲法へ!

衆院選でついに日本最大の格差問題に手をつけるか、安倍政権!?

福田有恒の「1匹と99匹」から考える、左派の本質と改革

国際政治が面白いほど読み解けるマクロな視点から、日本と東アジアを3分で理解する

がんからの生還ー標準治療と高タンパク・高ビタミンの「ハイブリッド作戦」

岩盤規制入門:利権のために国民を犠牲にする権益団体や官僚たちとの戦い

安倍首相が稲田防衛大臣を守り続ける本当の理由とは?

総理が死んだら、誰が自衛隊を指揮するのか?

憲法9条の改正は、第3項の追加が現実的である

日本国憲法が一度も改正されたことがない本当の理由

【最近の記事】

「聖徳太子はいなかった」は、本当か?〜聖徳太子不在論の真実

政治を「祭り事」というのは、なぜか? 歴史を遡り、その秘密を解く!

国が異常なまでに「辺野古移設」にこだわる死活的な意味とは何か?

北方領土についての、これ以上にない「正しい理解」

日本人はどこから来て、どこへ行くのか?ー天皇と神道の淵源を探る

参院選の「定数6増」は、実は野党に有利であることをわかっているか?

移民国家アメリカが移民を拒否したとき、何が起こるのか?

名こそ惜しけれ:責任感に欠けた世の中に求められる、関東武士の精神

北朝鮮の非核化は、ロシアにとって損か得か?

トランプは拉致問題の完全解決を狙っている〜では、日本の今後の対応は?

落ちこぼれから世紀の大品種へ〜コシヒカリの奇跡

新興国中国と覇権国アメリカが衝突〜「トゥキディデスの罠」より危険なものは米中の取引

憲法改正「合区解消」&参院選改革:対応策を洗いざらい整理して明確にしてみた。

中国がアメリカを抜く日は来ない〜習近平独裁政権の前に立ちはだかる苦難

「体制維持」にこだわる金正恩が、本当に怖れているものの正体とは?

Copyright © 「国民のための社会科」 All Rights Reserved.