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日本の政治・経済・社会

生活保護改革は「改正」か「改悪」か?

2014年04月05日

景気が回復している一方、生活保護を受けている人の数は、2013年12月時点で216万7220人もいることが伝えられている。従来、生活保護の受給者は高齢者や障害者、母子家庭に多かったのだが、20代〜50代の勤労世代にも増えているのが近年の傾向だ。1年前の215万1165人に比べて約1万6000人も増えており、社会格差が広がっていることが感じられる。

生活保護は、失業対策を行うハローワークや裁判の費用を出せない人を支援する法テラスなどと並ぶ、国の救済事業のひとつである。「健康で文化的な最低限度の生活」を保証する日本国憲法第25条に基づいて戦後まもなく創設され、失業や病気などのために働けない人を救うセーフティネットとなっている。

しかし、古くから「生活保護に頼ってしまうと、勤労意欲を失ってしまう」という問題が指摘されてきた。また、2012年に有名お笑いタレントの母親や親族の生活保護受給が報じられると、「自分の親も助けないのか!」と批難が殺到し、不正受給にまで厳しい目が向けられるようになった。
不正受給の数は2012年度で約4万2000件、金額にして約191億円。生活保護費全体に占める割合は0.53%に過ぎないが、無視できない金額となっている。


安倍内閣は生活保護費のうち食費などの生活費に当たる「生活扶助」を、2013年8月から3年かけて最大10%引き下げることを決定し、計670億円の削減を見込んでいる。一方、昨年12月には生活保護法の改正も行われ、生活保護から抜けるときには「就労自立給付金」が支給されることになった。生活保護を抜けた人が税金や社会保険料の支払いなどに困らないようにして、勤労者としてのスタートを切りやすくするためだ。

同じ国会で生活保護の一歩手前にいる人々を支援する生活困窮者自立支援法も成立した。求職活動を行う失業者への家賃補助や、自治体による相談窓口の開設と就労支援などが柱となっている。この相談窓口や就労支援は、担当者の意欲と力量次第では、生活保護とハローワークの間くらいの位置で困窮者の社会復帰に貢献するものになるだろう。生活保護は単なる金銭的支援から自立をめざす方向へ、大きくシフトすることになる。
憲法の根本的な精神から見ても、安倍内閣の方針は基本的に正しい。憲法第25条に規定された「生存権」は国民が国に依存することを了とするものではなく、困窮者が自立するための支援を国に求め、ひいては貧困を発生させている社会構造を正していくためのものだ。

とは言っても、人生が防戦にまわったときに反転して攻めに転じることは難しいものであるし、障害や高齢などにより自立できない人も少なくない。そういう面から見ると、安倍内閣の取り組みには問題点も少なくない。

2012年1月、札幌市のマンションで40代の姉と知的障害を持つ妹が遺体で見つかった。姉は3回も福祉事務所の窓口を訪れているのに、生活保護の申請をしていなかった。担当者に「マンションの家賃が高すぎる」とか「もっと就職活動を」などと言われ、自分たちには受給資格がないと思い込まされてしまったと推測されている。このような門前払いは「水際作戦」と呼ばれ、申請書すら交付してもらえず、餓死や孤立死や自殺に結びついた痛ましい事件も発生している。


安倍内閣の改革では、生活保護の申請時には、親族(親子・兄弟姉妹)の収入や資産なども調査されるようになる。すでに全国の自治体の中には、法の施行を前倒しして申請者の親族に調査書を送り、月々の給料、資産、ローンの返済状況などの提出を求めたところもある。
 このように親族を巻き込む形で審査を厳しくすれば、不正受給は減るだろう。しかし、親族に気兼ねをしたり、プライバシーが伝わることを嫌ったりして、生活保護の申請を断念する人もかなり出るだろう。夫からDVを受けて逃げている女性などのケースでは、所在を知られることを怖れて申請しないことも考えられる。「水際作戦」どころか「沖合作戦」になりかねない。

人生は山あり、谷あり。失業や病気やけがのため、働けなくなる怖れはだれにでもある。にもかかわらず生活保護は、とても肩身の狭い思いをしなければ受けられないものになりつつある。本当に生活保護を必要としている人に援助が届きやすいよう細かい配慮をしたり、親族として援助を求められても、それは必ずしも義務ではなく、断ってかまわないといったことを十分に社会に告知して行くことが大切だと思う。

※ 生活保護に関しては、Yahoo!ニュース(THE PAGE)でも書いた解説がある。興味がある方は読んでほしい。
「生活保護」受給者が増加 景気好転なのになぜ?
※ 生活保護の受給を考えている方を応援するサイトはいろいろあるが、説明がわかりやすいところをひとつ紹介する。
自立生活サポートセンター・もやい

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

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