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日本の政治・経済・社会

時代に合わせて進化・変化を続ける食べ物、寿司

2014年01月25日

寿司の始まりは古代の熟鮓である。貴重なタンパク源である魚を保存するために、炊いた米と混ぜて、米の糖化、魚介の自己消化、乳酸発酵を利用する保存食で、その始まりは紀元前まで遡る。日本には古代に中国から伝わった。
熟鮓は今でもつくられており、日本では琵琶湖の鮒寿司がよく知られている。独特の臭いがあるので、人により好き嫌いがあるだろう。
伝来後、約1000年をかけ、箱寿司のような押し寿司を経て、江戸時代に握り寿司が生まれた。

握り寿司は、江戸時代の文政年間(1818〜1830)に華屋與兵衛という人物が両国で始めたという話が通説だ。気の短い江戸っ子にウケて大流行したという。
初めの頃は、ネタは醤油にマグロを漬けたヅケか、酢締め、あるいは火を通した卵焼きやエビくらいだったが、明治時代後期になると氷を使った冷蔵庫が登場し、明治時代末から大正時代にかけて電気冷蔵庫も使われるようになり、生のネタを扱うようになった。技術の進歩により、幅が広がった。

意外と知られていないが、戦前までの寿司は現代の寿司に比べるとずっと大きかった。男性でも1口半、女性なら3口の大きさがあった。
寿司の大きさを決定づけたのは、第二次世界大戦の敗戦である。戦時中から食管法による食料統制を受けていたが、起死回生となる制度がGHQによって制定された。客が米1合を持参すれば、巻き寿司を含む握り10個と交換する形で仕事を再開してもよいという委託販売方式だった。
1口サイズで盛り込み10カンという握り寿司の形式は、このときにつくられた。結果としては、食べやすくなったと言えるが、影響を与えたのは戦争と政治だったのだ

高度成長期に電気冷蔵庫が普及すると、ウニやイクラなどのネタも一般化した。寿司は政治の影響も受けたが、やはり技術の影響が最も強い食品だろう。
今では冷凍技術の発達によって世界中の魚介類を楽しめるだけでなく、養殖法の研究も進み、餌に柑橘類を混ぜて魚の生臭さを抑える魚も登場した。くら寿司では、ユズやレモンやスダチを食べさせた「宇和島みかんぶり」をメニューに取り入れている。

こうして見ると、寿司は時代に合わせてどんどん姿を変えてきた食べ物であることがわかる。

回転寿司の登場と海外での寿司の広がり

1958(昭33)年、白石義明氏がビール工場のベルトコンベアをヒントに回転寿司を発明し、元禄寿司を起こしたことにより、状況は劇的に変化した。江戸前を気取っていた寿司屋は、自らが築いた敷居の高さが仇となって、気軽に楽しめる回転寿司に取って代わられていく。客だって、「こんな食べ方をして、バカにされないかな?」などと脅えながら食べるより、好きなように食べる方がおいしいだろう。

もちろんたまにはカウンターに座って、春先にはシンコやサヨリ、初夏にはアワビ…と旬を楽しむというのも悪くない。だから、高級店は高級店で残っている。


寿司は海外でも独自な発達を遂げている。ロスアンゼルスの日本料理屋で働いていた板前さんが、アメリカ人の嗜好に合わせてつくったカリフォルニアロールがもとになったものだ。握り寿司と違って、巻き寿司は技術的に難しくないのが普及の要因になったらしい。そして、日本人が知らないところで独自の発展を遂げている。

ジャムをかけたヨーロッパの寿司、バナナを巻いたブラジルの寿司、唐辛子ソースを使ったメキシコの寿司などの「ご当地ロール」はちょっと怖ろし気だが、見た目はきれいで、「食べてみたい」と好奇心がそそられる。ラズベリージャムなどは、案外寿司に合うかもしれない。
ローカル寿司が登場する一方、世界で日本の存在感が増すにつれて「本物の日本の寿司を食べたい」という人も増えて握り寿司も普及し、今や世界中の主要都市に回転寿司屋がある時代となっている。

この分だと、100年後には今では想像もつかないような寿司も登場しているに違いない。世の中では「ITビジネスは進化の速度が速くて、追いついていくのが大変だ」などというが、寿司の方がリアルな分、流通や設備などに費用がかかって余計に大変かもしれない。
一方、一般の人々にとっては、身近な分、時代の変化を感じ取れる食べ物となっているのである。

<付記>
東京巣鴨「鮨処蛇の目」の山崎博明氏に取材でお世話になったことがある。かつてTVドラマ「寿司食いねェ!」や「将太の寿司」の監修やアドバイザーをされていた方だが、寿司屋で2カンを基本とすることについて、こう言われた。

「2カン出すのは、ネタの種類が少なかった時代に、なるべくたくさん食べて頂くためにできた習慣です。勘定するのにも都合がよかったですしね。でも、今はネタの種類も豊富で、実情に合わなくなっています。寿司屋としてはいろんなネタを食べてほしいですから、1カンずつ握ってほしい場合は、遠慮なくおっしゃってください」

小食な方は、「1カンで」と言ってみるとよいかもしれない。

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【日本の政治・経済・社会】

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