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日本の政治・経済・社会

TPPだけに目を奪われてはならない。アジア全体へ視野を広げよう!

2014年02月18日

TPP交渉は「大詰め」と言われつつ、なかなか妥結に至らない。日本は農産物5品目の関税で譲らず、アメリカは自動車の関税で譲らない。先日、甘利明TPP担当相とアメリカのフロマン代表は会談をしており、これからカードを切って行くはずだが、どの程度譲り合うかは定かではない。

ベトナムやマレーシアは国有企業の占有問題で譲らない。アメリカは「国有企業も一般企業もオープンに競争できるようにすべきだ」と主張しているが、国有企業がGDPの多くを占め、国民の生活と密着している状態でオープンにしたら、現実にはアメリカ企業に市場を食われて、社会の激変が起きるだろう。

また、アメリカは新薬の特許期間の延長を主張している。受け入れれば、アジア諸国で重要なジェネリック医薬品の開発が遅れる。アメリカの独善性など、参加諸国はとっくにお見通しである。

一方、アメリカでは1月に行われた一般教書演説の際、オバマ大統領がTPA(Trade Promotion Authority/通商一括交渉権)の付与を議会に要求したが、身内の民主党の重鎮リード院内総務に反対を表明されてしまった。アメリカ国内でも、日本と同様、TPPが国内産業の衰退や雇用の悪化につながるという声が多いためだ。

アメリカの憲法では、通商交渉権は議会に属する。大統領が外国と話をまとめても、議会を通らなければ、条約を結ぶことはできない。そのため歴代の大統領は、難しい通商交渉の際には議会からTPAを付与してもらい、交渉に臨んで来た。TPAを取得できれば、大統領は議会に対して賛成か反対かだけを問えばよく、修正は受けなくて済む。
TPAを取得できなければ、議会で審議しなければならない。そうなればTPP参加国の間で話がまとまっても、変更を要求され、条約が成立に至らない可能性が高くなる。
それに、当然のことながら、交渉参加国の間では、「TPAを取得できないオバマと話し合っても意味がない」という姿勢が強くなってくるだろう。

おそらく民主党内で調整が進んでおり、3月くらいまでにTPAを取得できるような気もするが、まだ何とも言えない。


TPPが成立しなかったら、どうなるだろう。「残念」だろうか?

ここで、TPPでできて、従来のEPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)でできないものがあるかどうか、冷静に考えてみてほしい。実は何もないことに気がつくはずだ。各国の思惑が重なって話が進んで来たが、「絶対にTPPでなければならない」という必然性は、案外薄いのである。

TPPが成立すれば、確かに比較優位論的には参加国の富の総和は増え、各国はその恩恵に預かることになるだろう。しかし、産業が衰退したり、制度が崩壊したりしたら、デメリットは計り知れない。
折り合いがつかない問題は無理に折り合わせるのはやめて、「TPPは白紙に戻して、別のEPAやFTAで個別に仕切り直せばよい」というくらいの余裕を心に持って話し合ってほしい。


TPP後について、考えてみよう。
TPPが成立しなかったら、ASEAN、東アジア、オセアニア諸国でつくるRCEP(東アジア地域包括経済提携)がクローズアップされてくるだろう。中韓FTAや日中韓FTAも噛み合うことになる。
その場合、中国を中心に、あまり先進的でない通商ルールにもとづくメガEPAやメガFTAが出現するだろう。

一方、TPPが成立したら、中国はかやの外に置かれてしまう。
ここで誤解を解いておきたいが、TPPは中国封じ込めなどではない。中国もアメリカも日本もオセアニアもアジアも別々の魅力のある経済圏であり、中国を封じ込める必要など、最初からない。ただ、中国の経済環境がまだTPPに則さないだけである。たとえば、企業の公有制を主体としている中国が国有企業の優遇廃止を求めるTPPに参加するのは難しい。
TPPが成立すれば、いずれは中国を迎え入れる日も来るだろうが、現状では中国は排除されてしまう。

そうこう考えると、TPPもRCEPも成立させて両方をうまくまわして行くのが、日本にとって望ましいように思えてくる。


先日のソチオリンピックでの安倍首相の挨拶をもとに推察すると、予想以上のスピードでロシアとの関係修復も進んでいるようだ。近い将来、日ロ(日露)平和条約が締結され、極東ロシアへの日本企業の進出も進むだろう。極東ロシアは東アジアへのエネルギー供給基地となり、観光地としても開けていく。
TPPとRCEPに加えて、ロシアとのEPAもしくはFTAも準備しなければなるまい。

TPPの行方だけに目を奪われてはならない。
アジア太平洋では、重層的に通商戦略を考えていかなければならない状況となっているのである。

<補足>
わかりやすくTPPの論点を整理して、Yahoo! ニュースに書いておいた。興味のある方は読んでほしい。
大詰めTPP 難航分野の現状と展望は?

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

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