不完全なものに終わったCOP21で進む地球温暖化
2015年12月13日
第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で「パリ協定」が採択された。
1997年に採択された京都議定書の有効期限は2020年で終わり、それ以降、各国はそれぞれ目標値を掲げて削減の努力をしていくことになっている。そのため、目標値を示し合って合意するのが、今回のCOP21の主旨だった。
報道によると、途上国を含むすべての国が「パリ協定」を採択し、産業革命前からの気温上昇を2度より低く抑える目標を掲げ、さらに1.5度以内とより厳しい水準へ努力するとし、できるだけ早期に温暖化ガス排出を減少に転じると明記。「地球温暖化の阻止へ歴史的な一歩を踏み出した」という。
では、実際のところ、どう評価すべきだろうか?
CO2の排出量では、中国が世界の28%を占めて第1位。アメリカが16%を占めて第2位である。これに3位EU10%、4位インド6%、5位ロシア5%、6位日本4%と続く。さらに韓国・カナダ・イラン・サウジアラビアが2%で7位タイ。その他が合算で23%。これも馬鹿にならない(2013年/IEAによる)。
大きいのはやはり中国とアメリカだ。この2国で44%を占めるのであり、わずか4%の日本が努力したってタカが知れている。
この問題児2国をチェックしてみよう。
【中国】
A:2030年ごろにCO2排出量がピークを迎えることを達成し、より早期にピークを迎えるように最大限の努力を行う。
B:2030年までに、2005年比で、GDP当たりのCO2排出量を、60〜65%削減する。
C:2030年までに、一次エネルギー消費に占める非化石燃料(エネルギー)の割合を20%に増やす。
D:2030年までに、2005年比で、森林ストック容量を約45億㎥増加させる。
(WWF『COP21の「パリ合意」に向けた、各国の温暖化対策目標案の提出状況』による。)
まず、Aについてだが、これは「2030年まではCO2の排出を増やす」と宣言しているのにほかならない。あと15年間、中国はCO2を増やし続けるということだ。中国のGDPは2025年前後にアメリカに並ぶと予想されているのに、まだまだCO2を増やし続けると宣言しているのである。
次にBについてだが、中国の2005年のGDPは2兆2686億ドル。2014年で10兆360億ドル。約4.5倍に達している(The World Bank「GDP (current US$)による)。60〜65%削減と言われると多そうだが、よくある数字のマジックに他ならない。しかも、今後さらにGDPは伸びていく。それを考えると、実質的に10%にも満たない削減となる。これなら老朽化した火力発電所を壊して新しい施設に替えていくだけでも、かなりカバーできるだろう。「中国もやっと真面目に温暖化対策に乗り出した」などと、ダマされてはいけない。
Cについては、火力発電所を原発に替えると言っている。
Dについては、砂漠化が著しい中国において切実な問題なのだろうと思うが、実際に達成できるかどうかは不明である。
こうしてみると、中国は自国の発展を最重視しており、CO2についても自国のペースで対応する、つまり環境のことなどおつき合い程度にしか考えていないということがわかる。


【アメリカ】
2025年までに、2005年比で、温室効果ガス排出量を26〜28%削減する。28%削減へ向けて最大限の努力をする。
(同上)
アメリカのGDPも、中国ほどではないが伸びている。その意味で「26〜28%削減」という数値もかなり割り引いて見なくてはならない。さらにその背景を知っておく必要もあるだろう。
アメリカの強気の元はシェールガスだ。シェールガスはシェールオイルと同様、太古の生物の死骸が蓄積し、長い年月の間に油分を含むようになったシェール(頁岩)から取り出されるもので、CO2の排出が少ないとされる。シェールガスの採掘が本格化したのは、2005年以降。つまり「2005年比」というのは削減度を大きく見せようという仕掛けなのである。
シェールガスに限らず、天然ガスのCO2排出量は石炭の約半分だ。石炭を使う火力発電にも新式のものはあるのだが、さしあたり旧式の石炭火力発電をガスによる火力発電に切り替えていけばよい。しかも、増産が続くシェールガスによってガスの価格は下がり、アメリカの景気を押し上げる要因となっている。オバマはシェールガスを背景にすれば、世論を味方につけられる、さらにシェールガスの販売を拡大していくチャンスと考えているのだろう。
アメリカもまた中国と同様、たいした対策はしないのである。
実のところ、地球温暖化には曖昧なことも多い。アメリカでは「CO2が温暖化の原因であるという科学的根拠がない」という意見も根強いが、これには一理ある。地球はこれまで温暖な時期と寒冷な時期を繰り返してきた。近年の地球温暖化の主原因が地球自体の動きである可能性も、十分にある。しかし、化石燃料の消費によって地中に閉じ込められていたCO2を人類が解放してしまったこともまた事実であり、それは免責されるべきではない。
地球温暖化が何を引き起こすかも、よくわからない。楽観的に見れば、北海道が水田地帯に変わるように作物の産地の変遷は起きるとしても、世界全体では食料は増産になる可能性もないことはない。
ただし、未知の部分が多いのは言うまでもない。集中豪雨やそれに伴う洪水、台風やハリケーンの巨大化、熱波、寒波などの異常気象は各地で報告されている。また、海面が上昇すれば、ツバルやモルジブに限らず、多くの島々が海に沈み、日本の沿岸部も影響を受けるだろう。
そう考えれば、地球温暖化は止めるに越したことはない。その点、COP21の「パリ協定」により、先進国も途上国もすべてCO2削減の自主目標を作成して国連に提出することや、2023年から5年ごとに各国の目標を見直していくことが決まったのは、ある程度評価できる。
しかしながら、中国とアメリカについての検証から見ればわかる通り、「努力」は見せかけのものに過ぎず、「パリ協定」は表面上の合意にとどまったと言うべきだろう。
<追記>
COP21について、中国やアメリカの発表に疑問を呈した新聞は、残念ながらなかった。もし、このブログを読んでいる記者の方がおられたら、こういうときには必ずデータを検算することを心掛けてほしい。データがなくてよいのなら、何とでも言えてしまうではないか?
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