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地球環境問題

破綻寸前か!? 福島原発の地下汚染水、凍結作戦

2017年3月24日

今でも続く、放射線による汚染水との戦い

2011年3月11日に発生した東日本大震災は記憶に生々しく残っている。私自身、生まれて初めて経験した、震度5弱のローリングするような揺れを恐怖とともに思い出す。勤務先から夜通し歩いて帰宅した方も多いだろう。

地震や津波津波の被害も甚大だったが、中でも深刻だったのは、福島第1原発事故だ。
当時は民主党の菅直人が総理であったが、その指揮ぶりは国民の目にも拙く感じられた。実際、第1原発2号機の原子炉格納容器の爆発が刻一刻と迫り、吉田昌郎(まさお)所長が冷却のために海水注入の指揮を取っているとき、菅総理は「俺は原子力にはものすごく詳しい」と語って海水注入の中止命令を出した。それを受けた東京電力本社も中止を要求した。このとき、吉田所長が命令をハネつけて、唯一の冷却手段である海水注入を続けなければ、今頃、日本列島は人が住めない島になっていたかもしれない。その吉田氏も故人となった。

今現在、福島原発は、どうなっているのか? 放射線による汚染水との戦いが続いている。状況は決して明るくない。

海に流出を続ける汚染水

福島第1原発では原子炉建屋への地下水流入によって、大量の放射性汚染水が発生している。流れ込む地下水の量は1日に400トンと見られており、家庭の風呂でいうと2000杯分にもあたる。汚染水は敷地内のタンクの中に保管されているが、海に流出している可能性があることは東京電力も認めている。
流出ルートについては、東京電力は「原子炉建屋から汚染水が漏れ続けているわけではなく、事故時に大量に水が漏れたり、海水を取り込んだりしたコンクリートのトンネルであるトレンチに溜まっているもの」としている。
しかし、専門家の中にはそれだけではなく、「今も原子炉建屋からトレンチに漏れている」という見方や、「原子炉建屋から直接地下水に漏れている」という見方も少なくない。

これらの専門家の見方が正しいかどうかは、観測してみればわかることである。たとえば、産業技術総合研究所の丸井敦尚・地下水研究グループ長は「建屋と問題の井戸の間に10本も掘れば、漏れ始めたところはどこか計算できる。時間がたつとどんどん汚染が広がって調査が難しくなる。一日でも早いほうがいい」と指摘している。
また、東京電力は「専用港の外の海には漏れていない」と説明しているが、丸井氏は「専用港の外側に建つ防波堤の海側の海底に地下水がわき出る場所がある。そこを調査すべきだ」と主張している。海流で希釈されてしまう前に観測できるからだ。
(毎日新聞「続報真相 福島第1原発事故 汚染水、本当の深刻度」2013.7.26による。)

観測すればわかるものを観測しないのは、なぜだろう? 真実を知りたくない、公表したくないという防衛本能が働いているのではないだろうか?
1日に400トンもの地下水が流れ込んで、永遠に保管しておくことは不可能なのは、子どもでもわかる。結局は少しずつ海に流すしかなくなる。希釈すれば、その場しのぎで一定の値内に抑えることはできるだろうが、100年後、200年後、地球をどれほど汚染することになるか、考えるだに怖ろしい。

地下を凍結させる作戦、その成否はいかに?

国の汚染水処理対策委員会は、2013年、原子炉建屋とタービン建屋のまわりの土を凍らせて、全長1.5キロの「凍土遮水壁」を建設する計画を立て、地下水対策の「切り札」として投入することを決めた。80センチから1メートルの間隔でパイプを埋め、そこに凍結液を流して周囲の土を凍らせてしまおうというものだ。確かに地面ごと凍らせて固めてしまうのは、アイデアだ。

しかし、問題はうまくいくかどうかである。
「凍土遮水壁」は2014年6月から工事が開始され、2016年3月から運用が始まった。地下水はおもに山側から流れてくるが、東京電力によると2016年8月時点で山側は91%、海側は99%凍結したという。
ところが現実には汚染水の発生はなかなか減らない。そのため、地盤力学を研究している学者からは、「凍土壁は壁ではなく、すき間のあるすだれのようなものではないか?」と指摘されている。また、2016年には台風の影響で凍土壁の一部が溶ける事態が発生したこともある。

東京電力は、福島第1原発の建屋地下に溜った汚染水の処理を終える時期を、当初、2020年に設定していた。これは東京オリンピックを意識した政府の要請を受けたものだ。その後、2016年9月に、2年前倒しして2018年8月に処理を終えると発表した。
前倒しは結構だが、凍土壁が機能しない場合でも、2020年9月に処理を終えるとしている。

「凍土壁が機能しない場合でも、2020年9月に処理を終える」とは、何だろう? 素直に読めば、「破綻」ということになる。

あれほどの大事故だったのだ。「失敗を許さない」とは言わない。しかし、諦めるのはないだろう。「この手がダメなら、あの手。あの手がダメなら別の手」と智恵を出し合い、何とか解決するしかないではないか?

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【地球環境問題】

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