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地球環境問題

諌早湾の潮受堤防が、人間に突きつけている問題とは?

2011年05月13日

2011年4月19日、長崎県の諫早湾干拓事業の潮受堤防の開門問題について、干拓地の営農者や周辺海域の漁業者、住民、県農業振興公社らが、福岡高等裁判所が命じた常時開門に対し、開門調査を実施すれば、農業や漁業、防災面で甚大な被害を受けるとして、国を相手に開門差し止めを求める訴訟を長崎地方裁判所に起こした。

しかし、開門をめぐっては、すでに判決が出ている。
佐賀地方裁判所で行われた一審では諌早湾周辺の漁業被害を認めて、詳しい調査のために堤防の排水門を5年間、常時開門することを国に命じた。
さらに福岡高等裁判所で行われた二審でも、昨年12月6日、5年間の常時開放を命じる判決が下されている。この紛争は防災や環境破壊の問題がからんで複雑に見えるが、構造としては単純な利害対立に過ぎない。お互いに死活がかかっているため、紛糾しているだけである。

裁判の最大の争点は、貝柱が珍重されるタイラギの死滅や海苔の色落ちなどの不漁や赤潮の頻発が、潮受堤防で締め切ったことと因果関係があるかどうかということだった。
有明海は、栄養塩が蓄積しやすい内湾の地形だ。その水を干潟に棲む無数の貝、カニ類、ゴカイなどの生き物が浄化することで美しさが保たれてきたのに、堤防で締め切って干潟をなくしたことで、浄化能力を欠損させた可能性は確かにある。湾奥が魚たちの産卵場となっていたとすれば、魚の数が減るのも当然である。

まず、佐賀地方裁判所での一審では、その因果関係を認めた。それを不服として控訴した農林水産省が「漁獲量の減少は全国的な傾向」と主張したのに対し、福岡高等裁判所での二審では「全国平均より大きく減少している」ということで、因果関係を認めた。
因果関係が事実とすれば、干拓地の営農者らの事業や生活は、もともと漁業者の多大な犠牲の上に成り立っていることになり、やはり許されないだろう。法ではあとの人の権利に対しても一定の評価を行うが、それでもやはり先に権利を持っていた人々の権利を否定しては、社会が成り立たない。
したがって、反対派は開門調査を押し止めるのではなく、甘い判断で干拓事業を進めて営農者を誘致した国に損害賠償を求めるのが筋だろう。
堤防には防災の意味もあるが、それなら裁判所の判決の通り、危険があるときだけ閉めればよい。


昨年までの裁判で論点はほぼ出尽くしており、開門反対派の主張が認められる可能性は高くはないだろう。しかし、もし開門差し止めの仮処分申請などが通れば、いたずらに問題を長引かせることになる。すでに開門の判決が下っている以上、問題をいつまでも曖昧にせず、環境の変化が有明海の生態系にどのように影響を及ぼしたのか、きちんと調査するべきである。原因を明確にすることは、営農者と漁業者の対立を解消させるとは言えないまでも、問題を収束させていくことにもつながるだろう。
漁業者にしても完全にクリーンではなく、海苔用の殺菌剤の使用が環境悪化の一因となっていることも想像される。ただ自然の中で浄化可能な範囲内にあっただけだ。そのようなことを含めて、調査を行う必要がある。

ただし、開門したからといって、元の状態にはもどるかどうかは、わからない。1997年に堤防が完全に締め切られてから長い年月が経ち、干拓地では新たな環境が形成されて、堤防の陸側には生活排水やヘドロも相当に蓄積されている。潮受堤防内の干潟に生息していた、浄化作用を受け持つ生き物はすでに死滅し、陸生の生き物が棲んでいる。
生活排水やヘドロを一気に有明海に流したとき、どうなるかわからない。開門にあたっては、ヘドロを浚渫したり、生活排水で汚れた調整池の水を浄化するなど、環境にかかる負荷を減らす努力も必要になるだろう。
今回、開門差し止めを求める人々の中に、一部、漁業者もいるのは、汚れた調整池の水が排出されることで、養殖アサリなどが甚大な被害を受ける怖れがあるからだ。そうなれば、営農者だけでなく漁業者に対しても保障の問題が発生するだろう。

諌早湾の潮受堤防の問題がなぜ人々の興味関心を引きつけるのだろうか?
それは、諌早湾の問題は、私たちに「人は自然をどこまでいじってよいのか?」という問いを突きつけているからだと思う。

潮受堤防に限らない。たとえば全国の河川ではダムがつくられ、護岸工事が行われ、それは治水に役立つ一方で、土砂が海に流れなくなったため、砂浜がやせ細るという現象が起きている。
それを防ぐために、消波ブロックを沖に設置している。この消波ブロックは景観を台無しにするだけでなく、海底の土砂が削れれば転没する運命にあり、そうなればまた新しい消波ブロックを設置するしかない。

実際問題として見れば、川や海に異変が起きても、漁業者でもない限り、直接の影響を受けることは少ない。
海浜・湖沼の埋め立てや川の治水工事そのものは古くから行われてきたことで、今さら何を言うほどのものではないと言えば、それまでだ。

しかし、自然に大きな影響を及ぼす工事に際しては、政府は御用学者だけではなく、批判的な意見を述べる学識者や周辺住民の意見にも、心して耳を傾けるべきではないか?

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【地球環境問題】

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