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朝鮮半島と日本

「体制維持」にこだわる金正恩が、本当に怖れているものの正体とは?

2018年5月2日

北朝鮮「非核化」の鍵は、「体制保障」にあり!

朝鮮半島の非核化へ向けた動きが進み始めた。
と言っても、今のところ具体的な話は皆無である。非核化の演出が為されているだけで、「ダマシ」に終わる可能性も少なくない。

たとえば、1994年、アメリカと北朝鮮は核開発を凍結する代わりに軽水炉の提供を受ける「核枠組み合意」を締結したが、北朝鮮は秘密裏にプルトニウム抽出やウラン濃縮などを進行させ、アメリカは北朝鮮に重油や食糧を提供しただけに終わった。
また、2005年には、日米韓と中国、ロシア、北朝鮮が参加した6カ国協議では、北朝鮮が核放棄を約束する共同声明を採択したが、寧辺の核施設の一部を破壊しただけで、合意の破棄を一方的に主張した。その他、前科は多数ある。

それでも、今回は今までとは様相が違うように感じられる。
金正恩が追い詰められて本気になったというのもあるが、金正恩にとっても体制維持のための千載一遇のチャンスとなり得るからだ。
つまり体制さえ保障されれば、核問題では折れる可能性は十分にある(核以外の兵器がアフリカへ流れて行くとしても)。

と言えば、「独裁者が体制維持を願うのは当たり前じゃないか」と思われるかもしれない。しかし、独裁者の背景もさまざまだ。今回は、ほかの国にはない、北朝鮮独特の事情を読み解いてみよう。

中ソを反面教師として、世襲制へ舵を切った金日成

北朝鮮の初代は金日成。抗日パルチザンを率いて日本軍と戦い、1948年9月、北朝鮮人民共和国が建国された際、首相に就任した。 しかし、その権力は絶対的なものではなかった。当時、ほかに「ソ連派」「延安派」「甲山(カプサン)派」などがあり、なかでも「ソ連派」はソ連とのつながりをバックボーンとして、「延安派」は延安に集まる中国共産党とのつながりをバックボーンとして、金日成に対抗した。

そのソ連や中国でも、権力闘争が激化していた。
左派の権力闘争は暗い。官公庁や大企業などで左派と接した経験がある方はご存知と思うが、目的のためには手段を選ばず、息をするように嘘をつく。理屈に強いが、大体は大前提のどこかに虚偽がある。そして、陰湿で憎悪や暗い狂気が渦巻いている感じがする。
それは『史記』や『戦国策』に描かれてきた中国の権謀術数とも違う。中国の権謀術数も熾烈だが、どこかに「勝ったものが正しく、騙された者がバカなのだ」とする〝開き直り感〟のようなものがある。西洋のマキャベリズムなどとも違う。
左派の独特の暗さは、マルクスの思想の根底にある強い人間不信から来ているような気がする。

ソ連では絶対権力を誇ったスターリンの死後、フルシチョフがスターリン批判を行い、大粛清などの暗部をさらけ出した。また、中国では毛沢東の後継者と目されていた林彪が、権力闘争の果てに毛沢東の暗殺を図ったと疑われ、ソ連へ逃亡する途中、モンゴルで飛行機が墜落して死んだ。その死については、さまざまな憶測が飛び交った。
金日成はこうした状況を見ながら「血の粛清」を繰り返してようやく他派を抑え、世襲制で権力を固めようと決意したらしい。

北朝鮮における世襲制は、日本や西洋よりもはるかに重い。
中国や朝鮮半島は父系社会であり、「宗族」と呼ばれる父系の血縁が社会構造の底辺を支えている。中国人社会では大金持ちと難民が「父祖の出自」が同じとわかったとたん、抱き合って打ちとけるほどである。同じ世代であれば、兄弟同然としてつき合う。
韓国は基本的に「中国の小型版」なので、こうした父系社会ということも踏まえて、金日成は「世襲が最も安全」と考えたのだ。

「文明破壊」を本質とする中国文明圏の宿命への対抗

私は、金日成が世襲に決めた背景には、もうひとつ、中国文明圏独特の社会構造があると考えている。
それは、中国文明は「破壊の文明」であることだ。

日本人は何の疑問もなく、歴史は連続しているものと思っている。そのため「中国3000年」というような表現も、ごく普通に通る。
実は、これが大いなる勘違いなのだ。中国は「新しい国」「歴史の浅い国」なのである。

中国では人民が「天」と直結している。そして、天命を受けた者が皇帝となって世を統治し、よくない政治を行えば天から見放され、新たに天命を受けた者が取って代わる。これを易姓革命という。

そして、新たに天命を受けた者は、それまでの体制を破壊し尽くす。政治機構を破壊し、皇帝一族を殺し、いったん更地にして、その上に新しい国を建てる。だから、確かに中国は黄河文明以来の長い歴史を有しているが、人々の意識においては現在の国ができてからの歴史しかない。その意味では、中国はアメリカと同じくらい歴史が浅い国なのである。

多くの中国人の頭の中には時間という軸はない。毎日が行き当たりばったりで、日本人のように先のスケジュールなどは立てない。乗り物は「来たら乗る」であるし、人々は今日とせいぜい昨日および明日のことしか考えずに生きている。
こういった時間の感覚は、非文明国というだけでなく、どこかで国の成立に関わっている可能性がある。

朝鮮半島では、中国文明の影響は寺院や仏像のように「有形」のものから、芸術や祭りのような「無形」のものまで随所に見られるが、「無形」のもののひとつが韓国の大統領制であろう。
韓国では、建国後、終わりを全うした大統領は1人もいない。

■韓国大統領の末路
1.李承晩(イ・スンマン):選挙不正が発覚し、4月革命により国外へ逃亡。
2.尹潽善(ユン・ボソン):「民主救国宣言」が憲法違反との判決を受け、懲役5年。朴正煕によるクーデターにより追放。
3.朴正煕(パク・チョンヒ):部下の金載圭によって、1979年に暗殺。
4.崔圭夏(チェ・ギュハ):国会侮辱罪などで刑事告発。全斗煥・盧泰愚らによるクーデターにより追放。
5.全斗煥(チョン・ドゥファン):不正蓄財と民主化運動弾圧の罪で逮捕。
6.盧泰愚(ノ・テウ):退任後、不正蓄財と民主化運動弾圧の罪で逮捕。
7.金泳三(キム・ヨンサム):次男の金賢哲が斡旋収賄と脱税で逮捕。
8.金大中(キム・デジュン):3人の息子を含む親族5人が、不正蓄財で逮捕。
9.盧武鉉(ノ・ムヒョン):在任中に弾劾訴追を受け、退任後、山から投身自殺。
10.李明博(イ・ミョンパク):兄が収賄で逮捕。本人も収賄の嫌疑により逮捕。
11.朴槿恵(パク・クネ):知人に国政への介入を許したとして弾劾訴追。罷免後に逮捕。
12.文在寅(ムン・ジェイン):在任中。

※大統領職を一時的に臨時代行した人物は含めない。
※最終的に「恩赦」になった者もいる。

文化や文明の影響は、宗教や芸術などに限らず、社会制度などさまざまなことに及ぶ。
韓国を見ていると、「やはり朝鮮半島は中国文明圏だな」と感じることが多い。そのひとつが新しい大統領が就任すると、前の古い大統領は罪に問われる韓国の習性だ。
ここには、新しい国が建てられると、前国の皇帝は弑逆される中国の反映が感じられる。

整理すると、こうだ。
1.まず、韓国は父系の血縁社会なので、誰かが大統領になると一族が群がってきて、賄賂を取り、権力をほしいままに行使する。
2.その結果、大統領は易姓革命によって、別の大統領に取って代わられる。
3.そして、「破壊の文明」の宿命を受けて、なぶり殺しにされてしまう
、というわけだ。

最近では先月の4月6日にも、ソウル中央地裁は朴槿恵・元韓国大統領に対して、職権乱用や収賄などの罪により懲役24年の有罪判決を言い渡した。その際、一審の判決はテレビで生中継された。まともな国では考えられない野蛮な「見せしめ」だが、「破壊の文明」の顕れと考えれば、納得が行く。
それにしても、ゴールに上ったら(大統領になったら)罪に問われるとは、韓国とは何と嫌な国だろう。首相や大統領を引退後もやりがいのある仕事について、社会的に敬意を払われる日本やアメリカとは、まったく別の文明圏なのだ。

こういった朝鮮半島の独特な事情を誰よりも怖れてきたのが、金王朝なのである。韓国の大統領の末路のことも、同じ韓民族として「体でわかる」に違いない。
また、独裁国とはいえ、隠れた政敵はいるだろう。
左派同士の暗い抗争と「破壊の文明」である中国圏の宿命を二重に背負う金正恩の恐怖や心的ストレスは、相当なもののはずなのだ。

金正恩は、先日の習近平との面会でも体制維持を願ったと推測される。米朝首脳会談が行われれば、トランプにも体制保証を求めるだろう。
たとえ核を捨てても、強大な外国に保証してもらうことに成功すれば、それはそれで国内の政敵から身を守る術となり得る。もちろん、核を手放して殺されたカダフィのことは、金正恩も反面教師にするだろうから、話は単純には進まないだろう。それでも朝鮮半島の社会主義国という立地条件を考えると、他国に体制を保証してもらうというのは、「あり」なのである。

日本と北朝鮮との間で交渉が始まる日が来るかどうかはわからないし、体制保証をしてやることが正しい判断かどうかは別問題だが、金正恩の渇望である体制保証には、このような政治的・文明的背景があることも、考えておいて悪くないと思うのだ。

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【朝鮮半島と日本】

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