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朝鮮半島と日本

安倍首相の衆議院解散総選挙は、「北朝鮮と始まる」というサインである

2017年9月29日

安倍首相が、衆議院解散総選挙を発表した。最初に聞いたとき、直感的に「ああ、北朝鮮と始まるな」と思った。瞬間、自分の中で「いや、そんなはずは」と打ち消したが、何日か経ってやっぱり直感が正しいと思い直した。
なぜ、この時期に解散総選挙なのか、いろいろ取り沙汰されている。確かに理由はひとつではないが、北朝鮮が一番大きな要素で、あとは枝葉だ。

トランプは国民に向かって、北朝鮮がいかに非道な国か、あおり始めた。元々、アメリカという国の本質部分には、自国のことのみ考えようとする「閉じた」面と、皆の模範になるような「丘の上の街」をめざす面の2面が、表裏一体となっている。対外戦争を行う前には、相手国の非道さをあおり、国民の怒りに火をつけるのが常套手段だ。それが出始めている。

アメリカは来年にも軍事行動を起こす可能性がある。もしかしたら、すぐにでも起こしたいところを、安倍首相が「選挙が済むまで待ってくれ」と言ったのかも知れない。
衆議院議員の任期は4年間なので、期限は2018年の12月が最後となるが、解散総選挙を来年にするゆとりは残されていない。

荒井広幸元参院議員は、次のように語っている。

私は「この時期の解散・総選挙は北朝鮮情勢への対応で政治空白を作るし、『もり・かけ(森友学園・加計学園問題)隠しだ』と批判される」とはっきり進言しました。
私の言葉に首相はいらだつかなと思いましたが、意外に淡々としていました。そして私にこう言ったんです。「国際社会が圧力を強めない限り北朝鮮は核・ミサイルを放棄しないよ。対話と言いながら結局、時間稼ぎされて核・ミサイルがここまできてしまった。これから圧力をかけるしかない中で解散・総選挙をするのは今しかないんだ」
(産経新聞 2017.09.25 【単刀直言】荒井広幸元参院議員 北朝鮮危機前に衆院選、今しかない)

安倍首相としては、自民党と公明党で3分の2は無理としても、何としても過半数を取り、その体制で北朝鮮問題に取り組むつもりなのだ。


国内は、政治の化学醸成が一気に進んでいる。ついに立ち枯れた民進党から比較的保守に近い考え方を持つ人たちが、沈みかけた船から逃げ出す鼠のように、希望の党へ押しかけ始めた。

レベルの低い、情けない行動だが、国会議員でなくなれば、秘書たちを解雇し、自分も失業者となるのだから、わからなくはない。

ただ、テレビを見ていたら、前原誠司氏が「我が儘な安倍政権を、何としてもストップさせる!」と語っていた。
安倍首相の政治手法は変幻自在で、理解できない国民がいるのは仕方がない。また、共産党の志位和夫委員長のように、その変幻自在ぶりが視えている政治家が、視えていない国民に迎合するのも、志は低いが仕方がない。しかし、前原氏は本気で言っているようだ。これは、ちょっと困る。

この程度のことが視えない人が、習近平やプーチンを相手に外交戦をやっていけるとは思えない。横綱と幕下のようなもので、手もなくヒネられてしまうだろう。いや、自分が負けたことにすら気づかせてもらえず、ロボットになって日本の国益を損んじることになりそうだ。

安倍首相もパーフェクトではない。たとえば、2016年4月にはオーストラリアとの間でほぼ決定していた「そうりゅう」型潜水艦の受注が中国の工作により覆され、フランスとの共同開発ということになった。
中国の王毅外相が「日本の軍事的輸出の野心」を取り上げて、訪中したオーストラリアのビショップ外相に「アジアの国々の感情を考慮するよう」警告したことによると報道されたが、裏工作は進んでいただろう。完全な油断、あるいは諜報力の不足であり、言い訳は効かない。

このような失点は、確かにある。しかし、大筋ではプーチンとほぼ互角、習近平には今のところ優位に立っており、次のラウンドを見据えてにらみ合いとなっている。その手腕は公正に評価すべきだと思う。


希望の党については、新聞報道によると、小池氏の自民党批判の項目のひとつに消費税批判があるという。「まさか前原誠司氏らまで希望の党へやって来て、10%にアップする消費税の使い道について、文句をつける気ではあるまいな?」と思う。10%にアップすることを決定したのは、自民党でなく、過去に政権にあった民主党であるからだ。

法案が国会で審議され、法として成立した以上、施行しなければならない。しかし、現実に10%に上げたら、経済は腰折れしてしまう怖れが強い。そのために安倍首相がどれだけ苦慮してきたか、わかっているのだろうか?
また、民進党は「税金を若い世代に還元せよ!」と言い続けてきたが、安倍政権が若い世代に税金を差し向けたら、それを批判するのだろうか?
いつものように、「(自分たちがやるのはいいが)安倍政権下では不可」と言うつもりだろうか?
そうなれば、出鱈目としか言いようがない。

上記のようなことについて、小池百合子氏が言うのは、まだ許せる。しかし、民進党から来た議員が語る資格はないのである。

それでも小池百合子氏の言葉を見ている限り、民進党に比べれば、9条の神学論争もそろそろ止めて、少しはマシな憲法論議が始まりそうだ。自民党の憲法草案も決してよい出来とは言えないので、少しはマシな第2党が生まれて論議が活発化することを期待したい。

ただ、左翼出身者独特のウソのアジテーションは、軽蔑感を覚えるので止めてほしい。消費税批判もやるなら、自分らが10%に上げたことをまず謝ってから、言うべきだ。
<後記>前原氏は無所属で出馬することを発表したが、民進党から希望の党へ移る議員に消費税批判をする資格がないのは、変わらない。


さて、来年は、イギリスの戦艦も南シナ海にやってくる。日本海まで北上してくるかもしれない。
アメリカは、最後のところでは、イギリスゆかりのファイブアイズ同盟(アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド)を頼りにしているようだ。

ただし、ファイブアイズ同盟と言えども、盤石ではない。カナダはアメリカを警戒しているし、オーストラリアのターンブル首相は親中派として知られる。前記の潜水艦受注変更も、その意向が関わっている。
今年2017年6月にはアジア安全保障会議で、ターンブル首相はアメリカとの同盟関係を重視し、中国の拡張主義を看過しない姿勢を示したが、今後、グラつかないよう、テコ入れしていく必要がある。

また、イギリスにはキャメロン前首相の下で財務相を務めたオズボーンのように、金に汚く、露骨に中国に利益誘導を行なって来た人物もいる。現在のメイ首相によって閣僚からははずされたが、返り咲かないかどうか、警戒を続ける必要がある。
さらにトランプ大統領も極めて現実主義的な人物であり、日本はいつハシゴをはずされてあわてないよう、心構えをしておく必要がある。

それでも、中国・北朝鮮・ロシア・ドイツに対抗していくには、際立った情報網を持つファイブアイズ同盟との連携は欠かせないし、強大化する中国という現実を前に日米安保条約は死活的に重要なものとなっている。

※なぜ、中国やロシアの側にドイツが加わるのか、なぜイギリスと日本が結びつくのかについては、次の記事を参照。
【HP】国際政治が面白いほど読み解けるマクロな視点から、日本と東アジアを3分で理解する


北朝鮮包囲網がどう展開していくかは、予測がつき難い。
産経新聞によると、アメリカでは、オバマ政権で大統領補佐官だったスーザン・ライス氏は、「北朝鮮に核放棄をさせるにはもう軍事手段しかないから、米国は実利的な戦略として北の核武装を受け入れ、伝統的な抑止力でそれを抑えるべきだ」と語っている。
また、オバマ政権で国家情報長官だったジェームズ・クラッパー氏も「北の核武装を受け入れた上で、そのコントロールの方法を考えるべきだ」と述べている。

しかし、トランプ大統領は、北朝鮮は一般の国家の理性や合理性に従わない「無法国家」であり、東西冷戦時代に米ソ間で機能した「伝統的な抑止」は適用できないと反論した、という。
(産経新聞 2017.09.23 【緯度経度】危険な北の核容認論 古森義久氏 による。)


オバマ政権下でアメリカは、北朝鮮と水面下で国交正常化を見据えた交渉を行なって来たと伝えられている。しかし、核を放棄しようとしない北朝鮮と交渉することは、危険極まりない行動である。下手に交渉すれば、北朝鮮の核保有を実質的に認めることになり、金正恩は米朝国交正常化への流れを手にするだろう。
それは、アメリカの外交的敗北を意味する。
容認論を断固として撥ねつけたトランプ大統領の野生的な政治カンはさすがだが、どこかで落とし所を探っているのかも知れない。正直言って、私にも読めない。

北朝鮮に対しては、アメリカも軍事行動は簡単には起こせない。相手は、イラクのフセインやリビアのカダフィとは違う。1発でも核ミサイルを食らったら、何十万人もの人々が犠牲になる怖れがある。実際、アメリカが核保有国を先制攻撃したことはない。
ゆえに私はこれまで「アメリカが北朝鮮を先制攻撃することはない」と考えてきた。まず、妥当な見方だと思う。その見方を、場合によっては引っくり返さなければならないときが来たようだ。

問題を放置しておくと、本当に人類最終戦争につながる危険性がある。それはトランプ大統領も、よくわかっているだろう。衰退期に入って内向きになっているアメリカだが、これはやらざるを得ない。

もちろん、短絡的にアメリカが軍事行動に出るとは考え難い。戦争になるのを回避しながら問題を解決するために、あらゆる努力が行われるはずである。それには、じっくりと腰を落ち着けて取り組むための十分な期間を要する。だから、今、解散総選挙なのである。

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

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