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朝鮮半島と日本

米朝首脳会談:トランプは何を要求するか? 金正恩は何を狙っているか?

2018年4月18日

金正恩が習近平を電撃訪問!

北朝鮮の金正恩委員長が、3月25日から28日にかけて中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。電撃的なすばやい動きだった。
この動きは何だ?
5月か6月に予定されている米朝首脳会談への布石である。

会談に先立ち、トランプ大統領は国家安全保障担当の大統領補佐官・マクマスターを解任し、後任にボルトン元国連大使の起用を発表した。また、国務長官のティラーソンを更迭し、前CIA長官のポンペオをあてた。
この2人はタカ派で、とくにボルトンはブッシュ元大統領をイラク戦争に突入させた強硬派。アメリカ国内でも「悪魔の化身」とまで言われた人物だ。会談では「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」を、厳しく要求するだろう。
※CVID=Complete Verifiable Irreversible Denuclearizationのこと。

金正恩としては、中国の後ろ盾がほしい。
習近平としても、このところ事態は米韓主導で動いていたが、一転して、朝鮮半島に影響力を振るうことができるようになり、大歓迎である。
…という両者の思惑が一致したのが、今回の訪中だった。

さて、政治には匂いがある。習近平相手の外交戦では7〜8割の勝率を誇ってきた安倍政権だが、今回は出遅れた気配が濃厚に漂っている。中国特務が(たぶん)まわしているもりかけ問題で、足を引っ張られたのだろう。
おまけに日本政府とホワイトハウスをつないでいたマクマスターの解任により、パイプが狭まった。現在、真に有効なパイプは、安倍ートランプのホットラインくらいかもしれない。しかし、米朝首脳会談は安倍首相に知らされることなく決まったことを思えば、日本にとってあまりよい兆候ではない。

それでも、米朝首脳会談はトランプの側近にも知らされていなかったので、仕方なかった面はある。
ひとまずは、安倍ートランプが戦略的に進めてきた圧力が効いていることを評価しよう。

金正恩が習近平を訪問した背景を読み解く

軍事的な圧力と経済制裁が金正恩を追い詰めていることは間違いない。相手がトランプだけに、本当にアメリカが軍事行動をとるかもしれないという恐怖は常にあるだろう。
また、昨年、中国もしぶしぶ賛成した国連安保理の制裁決議により、国内の経済状況は相当逼迫していると推察される。

金正恩はこの軍事圧力と経済制裁に音を上げ、平昌オリンピックを奇貨として、アメリカとの交渉に入ることにしたのであろう。しかし、北朝鮮とアメリカの間には、パイプがない。そこで、韓国を利用することにした。オリンピックでの微笑み外交の目的は、「韓国を中継した、アメリカへの架け橋づくり」だった。

平昌オリンピックは、外交の隠れ蓑にもなった。開会式と閉会式に韓国へ特使を送れば、韓国は当然その返礼の使者を立てる。その特使を通じて、トランプに「米朝会談をしたい」と伝えたとされる。文在寅が親北派なので、利用できたのだ。
それにしても、軍事的に対立しているはずの北の使者を南が引き受ける奇妙さには、日本は警戒しなくてはならない。

ただし、韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)大統領府国家安保室長らから成る特使団が3月8日にアメリカを訪問して、ホワイトハウスの庭で行った声明発表も、奇妙な光景だった。マスコミは来たが、アメリカの政府関係者は1人も立ち会わなかったのである。「勝手にやってろ!」(こちらがすべてを決める。お前の話は一切受け付けない)というメッセージを返したのだろう。

おそらく金正恩は大陸間弾道ミサイルの放棄と、自分の政権の保障のバーター取引あたりを、持ちかけようと考えていたのではないか? 
しかし、トランプはその手をピシャリと打った。ボルトンとポンペオの起用は、「虫のいい話は許さんぞ」という意思表示である。せっかくの平昌オリンピック微笑み外交は、無残に砕け散ったのだ。

アメリカの対応に怖れをなした金正恩は、中国に救いを求めた。その切迫感が、中国への慌ただしいお召し列車となった。中国が出てくれば、朝鮮半島問題はアメリカと中国の対立にすり替わり、アメリカもそう簡単に手を出せなくなるからである。

中国と北朝鮮は、長年、険悪な関係にあった。本当を言えば、金正恩は中国のことはこれっぽっちも信用していない。それは習近平も知っている。しかし、大局のために過去の非礼を水に流し、皇帝並みの礼遇を用意して、あたかも父親が息子に接するように金正恩を迎えた。
金正恩が顔に安堵の色を浮かべて、真剣にメモをとる様子が印象的だった。

米朝首脳会談は、こう展開する!

5月か6月に予定されている米朝首脳会談では、アメリカは2003年にリビアのカダフィ大佐に対して取った「リビア方式」を要求するだろう。
リビアの場合、アメリカのCIAとイギリスのM16が入って、国内のすべての核関連施設から、核物質や装備、設計図、ミサイルなどを、根こそぎテネシー州にあるオークリッジ国立研究所に運ばせて解体した。その上でリビア国内を2年間かけて検証し、ようやく制裁を解除した。

中国は、どう出るか?
中国の北朝鮮に対する本音は、「緩衝地帯として、細々と生きていってほしい」ということである。核やミサイルについては、中国に飛んでくる怖れもあれば、アメリカを呼び込むきっかけにもなるので、非核化の件は基本的に賛成している。非核化を支持する見返りを、貿易に求めるといったことも考えられるだろう。
産経新聞では、2017年3月の全人代(全国人民代表大会)で王毅外相が非核化と米韓の合同軍事演習の停止のダブルフリーズを提案したことから、同じようなことを要求する可能性を示唆している。また、平和条約の締結と非核化を同時に進めるツートラックの提案を予想している。(【激動・朝鮮半島】中韓露vs日米鮮明 北非核化、「段階的」か「不可逆的」か 2018.3.31 産経新聞)

韓国は、「リビア方式」よりもゆるい「段階的で同時並行的な措置」を擁護するかもしれない。

日本は、どう出るべきか? まず、中国の言う「非核化と米韓の合同軍事演習の停止のダブルフリーズ」は、受け入れ難い。
また、韓国が支持するかもしれない「段階的で同時並行的な措置」は、今まで何度も繰り返されてきた時間稼ぎにほかならず、これも受け入れるわけにはいかない。
やはり「リビア方式」を支持し、拉致被害者の全員一括帰国を要求し、解決が進めば経済支援を行うことをカードとして交渉の席に加わり、朝鮮半島に影響力を発揮すべきだろう。

東アジアで起きる地政学的な劇的変化に備えよ!

しかし、会談が日米の思惑通りに進むかどうかは、不明である。
金正恩は核を失ったカダフィの運命を知っている。中国が北朝鮮を手放すことも考え難い。非核化についても、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」ではなく、もう少しゆるいものを提案するかもしれない。
アメリカが軍事行動を取る可能性もある。
そもそも、本当に5月か6月に会談が開かれるかどうかも、あやふやである。

たとえ会談が平和裡に進んだとしても、問題はそのあとだ。今までさんざん国内外に核武装を演出しておいて、いきなり核を放棄し、政権が保つだろうか?
もし、金正恩体制が崩壊すれば、核やさまざまな機密書類を確保するために、アメリカと中国は即座に軍事行動を取り、衝突することになるだろう。

こうしたことから、韓国が北朝鮮を吸収合併するのと引き換えに、アメリカが朝鮮半島から軍隊を引き上げるというシナリオもささやかれている。これなら、アメリカも中国も歩み寄れるからだ。
そうなれば、東アジアの地政学的状況は一変する。日本は、国家や文明の存続そのものが危機に陥るだろう。

東アジアの勢力図は、ここ数十年続いたものとは根本的に変質している。北朝鮮問題がどう展開しようと、日本が大きな波をかぶることは避けられない。

日本はわずかな油断が取り返しのつかない事態をもたらすという自覚をもって、北朝鮮問題に向き合うとともに、憲法改正を進めて軍備を増強し、中国に勝てるとまでは言わないものの、対等に戦える戦力を養成していく必要に迫られているのである。

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

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