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中東・北アフリカと日本

原油価格決定権を狙うトランプーエルサレムをイスラエルの首都と認めた本当の理由ー

2017年12月8日

粗野だが、「ポイント」ははずさないトランプ

トランプ大統領が、「エルサレムをイスラエルの首都と認める」と公言して、波紋が広がっている。
なるほど。そう、来たか。この大統領は、いつも私たちを楽しませてくれる。

トランプの動きは、下手な「識者」や「専門家」などが束になってもかなわない、野生的な政治カンと高所からの判断力に基づいている。
何を考えているか、解ける人が少ないので、マスコミは「クレイジー」の印象を与えて済ませようとするが、実は常に鋭い直球勝負だ。ただ、それが「直球」であることを見抜くには、見る側にもそれなりの見識が要る。

普通、アメリカの大統領は、品性がよく見えるように演出を欠かさない。
たとえば、前任者のオバマは広島へやってきて、老人をハグして日本人に共感を与えた。メディアはこぞって好意的な報道をした。
しかし、本当にオバマは日米の悲惨な戦争の歴史に思いを至らせていたのだろうか?

違う。あれは大統領選の渦中にあったトランプが、「日本の核武装を認める」と発言した直後に、急遽、動いたものだった。
※トランプの日本核武装容認発言は、2016年3月26日、ニューヨーク・タイムズ(電子版)のインタビューでのこと。その時点では、訪日の予定はなかった。そして、オバマの広島訪問は、2016年5月27日。

答えを言ってしまうと、トランプ発言を機会に日本で核武装論が台頭してくる怖れがあったので、現役の大統領として、火消しにやってきたのである。
その際、オバマは自分を「いい人」に見せることも忘れなかった。そのための「ハグ」だった。

トランプが超大国の指導者にふさわしくない粗野な人間に見えるのは、それは、彼がその種の自己演出をしないために過ぎない。言ってしまえば、ほかの大統領もトランプも「どっこい」なのである。うわべを飾るか、飾らないかの違いだけだ。

エルサレム、嘆きの壁 エルサレム、嘆きの壁 エルサレム、嘆きの壁

アメリカにとって、「重要性」を失った中東

エルサレムは誰もが知っているように、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の聖地である。
この3宗教はユダヤ教として始まり、紀元30年頃、イエス・キリストとその弟子たちによってにキリスト教が枝分かれした。
当時、日本はまだ弥生時代。その160年くらいあとに、卑弥呼が登場する。
その後、日本でいうと推古天皇と聖徳太子の時代に、ムハンマドによってイスラム教が枝分かれした。

イスラム教では『コーラン』が最も重要とされるが、『聖書』も読まれる。『聖書』は「聖典のひとつ」である。遅れて登場した分、前任者よりも自分たちを「進んだ教え」と位置づけている。そのこともあってか、現在はユダヤ教(イスラエル)とキリスト教(アメリカ、ヨーロッパ諸国)が手を組んで、イスラム教を牽制している。
とにかくエルサレムの件はデリケートなので、歴代のアメリカ大統領も触らないできたのだ。

なぜ、トランプになって、急に方向転換をしたのか?
アメリカにとって、中東の価値が下がったからである。

中東の価値とは、ズバリ、「石油」である。しかし、アメリカではシェールオイルやシェールガスの採掘が実用段階に入り、2010年頃から本格化した。これを「シェール革命」と呼ぶ。

「シェール革命」で、アメリカは原油輸入国から輸出国に転換!

シェールは、日本語では頁岩(けつがん)という。生物の死骸が湖の底に沈み、何万年もかけて岩になったもので、書道のすずりの石などに使われる。
石油は古代の生物の死骸が元になったという説が有力で、石炭は明らかに太古の木の化石だが、シェールも油分を含んでいることがあり、アメリカでは五大湖の南西の一帯などがその産地となっている。

シェールの埋蔵量は100年ともいわれるが、よくわかっていない。ただ、その開発によって、エネルギー危機問題が大きく転換したことは確かである。昔はよく「限りある石油を大切に!」といわれたものだが、当面、解決してしまったのだ。

アメリカはこれまで、自国で産出する石油になるべく手をつけずに温存し、中東などから輸入してきた。しかし、一転して、石油輸出国になりつつある。

ただし、シェールオイルにも弱点がある。それは、多くの場合、地下2000〜4000mに眠っていることだ。富士山を逆さにして、その頂上前後にあるわけだから、掘るのは大変だ。
それでも垂直に深く掘ってから、水流で岩盤を砕いて水平に掘り進み、薬品を使ってオイルを溶かして抽出する技術が確立され、次第にコストも下がってきた。

中東のように穴を掘れば石油が噴き出してくるのと比べればコスト高とはいえ、価格競争ができるようになってきた。
だから、アメリカは昔ほど中東を重視する必要がなくなった。平たく言えば、「自分の国で石油が十分に採れるようになったから、もう中東は要らない」ということなのである。
仮にトランプ以外の人物がアメリカ大統領になったとしても、中東軽視へ動くことは同じであっただろう。

シェールオイル・ガスの産地 シェールオイル・ガスの産地 シェールオイル・ガスの産地

原油価格は、どのように決まるのか?

ここで原油の価格がどのように決まるのかを、歴史をたどりながら見てみよう。

1859年8月、アメリカ・ペンシルベニア州のタイタスビルという片田舎の農地で、エドウィン・ドレークという男が黒い石油がにじみ出ているのを発見した。これが「石油の発見」とされる。
※歴史的に見れば、日本でも古代に越の国(現在の新潟県)周辺で「燃える水」が発見されて、朝廷に献上されているが、近現代に話を限る。
その後、多くの人々が石油の採掘に挑戦し、ジョン・D・ロックフェラーを筆頭に、アメリカやヨーロッパで多くの成功者が誕生した。彼らを石油メジャーと呼ぶ。

最初の頃、石油メジャーは「採掘→輸送→精製→販売」という独占一貫体制を取り、価格もメジャーが決めていた。

しかし、産油国から見れば、自国内で他国の会社に原油を掘られ、しかも価格を決められてしまうのは面白くない。
そこで、産油国は連携して、1960年にOPEC(オペック、石油輸出機構)を設立し、採掘権を国有化した。その取り扱い量は、当時の全世界の原油の約8割。原油価格の決定権を、石油メジャーから奪い取った。

ところが、OPEC諸国はしばしば生産量の割り当て量の取り決めを破り、足並みを乱した。そのため、「価格は市場に任せるべきだ」という考え方が台頭してきた。

1979年、アメリカではカーター大統領が原油の価格統制の廃止を決定。さらに1883年、ニューヨーク・マーカンタイル取引所で、WTI(ウエスト・テキサス・インターメディテイト/テキサス軽質原油価格)という先物取引が開始された。こうして、原油価格決定権はOPECから奪い取られ、市場で決められるようになった。
※原油には大きく分けて、軽質原油と重質原油がある。ガソリンや合成樹脂になる「ナフサ」や軽油などの成分が多いものを軽質原油、重油などの成分が多いものを重質原油という。

現在はこのWTIとヨーロッパの北海で採掘される「北海ブレント」により、原油価格の方向性が決まっている。ほかにはドバイ原油などの先物取引も、かなり大きな影響力を持つ。
(資料はおもに「週刊ダイヤモンド 2015.2.7」と「週刊エコノミスト 2015.2.3」に基づく。)


市場価格を一発で引っくり返すサウジアラビア

このように原油価格は、基本的に市場で決まるのだが、これを一発で引っくり返す、非常に大きな影響力を持つ国がある。サウジアラビアだ。

ほとんどの場合、石油会社は施設を100%稼働させる。施設に莫大な投資を行って最大限に元を取ろうと思えば、100%稼働させるのが最も効率的だからだ。
しかし、サウジアラビアは常に多くの有休施設を抱えている。これにより、生産調整を行うことができる。保持している原油の余剰生産力は、なんと世界の約7割。サウジアラビアがその気になれば、原油価格を上げることも、下げることも可能なのだ。つまり、唯一不変の原油のマーケットメーカーとは、サウジアラビアなのである。

ちなみに2015年に原油安が世界的な問題になったが、サウジアラビアは動かなかった。原油価格が下がれば、自国をはじめとするOPECの国々もつらいが、それを耐え忍んで、高コストで競争力が劣るアメリカのシェールオイル会社を潰そうとしたのである。
これをアメリカ側から見れば、サウジアラビアとOPECは「目の上のたんこぶ」に他ならない。

原油の余剰生産能力 原油の余剰生産能力 原油の余剰生産能力

ここまで来ると、トランプが、何を狙っているか、だいたい見えて来る。
そう。サウジアラビアを盟主とするOPECから、原油価格の決定権をもぎ取ろうとしているのである。
これが、トランプの中東政策のキモなのだ。

サウジアラビアとOPECから原油価格決定権を奪え!

もちろん、原油価格は市場で決まるから、価格決定権は単純に奪えるものではない。しかし、OPECが大きな力を持っていることは事実であるし、アメリカのシェールオイルが原油価格にそれなりの影響を与える存在となってきたことも事実である。

だから、今後は、アラブ諸国の力を削いでいこうというわけなのだ。そうすれば、原油価格は市場で決まるとしても、実際にはアメリカが大幅に関与するようになり、エネルギーを支配することになるだろう。エネルギーは戦略物資でもある。それを牛耳る意味は大きい。

これが、もしトランプでなかったら、もう少し穏便にアラブ諸国の力を削ごうとするだろうが、正面を切ってしまうのが、トランプのキャラなのである。しかし、それは先に書いたように「うわべを飾るか、飾らないかの違い」に過ぎない。

「エルサレムをイスラエルの首都と認める」という発言は、トランプ大統領の中東政策の幕開け宣言なのだ。ニュアンスとしては、アラブ諸国への宣戦布告に近いかもしれない。

<後記>
※「原油価格の決定権」云々という話が少しややこしいと感じる方は、単に「アメリカはシェール革命によって国内で石油を調達できるようになったので、中東を必要としなくなった。アメリカにとって、中東は軽いものになったのだ」と理解しておけば、十分である。そうすれば、今後起こってくるさまざまな事象を、「本質」から捉えれられるようになる。

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【中東・北アフリカと日本】

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