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中東・北アフリカと日本

アメリカのシリア空爆で、米露関係は悪化するか?

2017年04月13日

トランプ大統領は、2017年4月7日、突如シリアを空爆した。このところ、中東では「アメリカがイラクを獲り、ロシアがシリアを獲り、第3極としてEUの盟主ドイツがイランを市場として狙う」という分け取りの構図が出来かかっていたが、「シリアは、ロシアの思い通りにさせるわけじゃないんだぞ。勘違いすんな!」というメッセージをプーチンに対して送ったというのが、その「本質」である。

副次的には、トランプには「大統領選でロシアから金銭的支援を受けた」とか、「親露路線をとるのは、ロシアに弱みを握られてるからだ」という疑惑があったので、それを払拭する意味もある。

トランプ自身は「化学兵器の使用は許せないから空爆した」と語っているが、政治に興味関心のある人なら、建前に過ぎないことくらい勘付いているだろう。また、報道では「断固としてやるときはやるという姿勢を示すことで、中国や北朝鮮を牽制している」というようなことも言われているが、これは枝葉であろう。

ただ、私もそうであったが、今回の空爆について虚を突かれた人は多いと思う。トランプは親露政策を公言していたからだ。ロシアがアサドを容認している以上、アメリカのアサド攻撃は考えにくかった。
では、なぜ豹変したのだろうか?


振り返って見れば、アメリカとヨーロッパは、長年、アサドの独裁体制こそ解決すべき問題だと主張してきた。ところが文明論的にも地政学的にも大問題と言えるISの誕生と拡大を受けて、アサドもISも敵とする「2つの敵」論を取らざるを得なくなった。
しかし、オバマ時代のアメリカは「2つの敵」を同時に打倒する具体的な方策を示せなかった。それどころか、「2つの敵」のうちの1つも倒すことができなかった。

これに比べると、「アサドの存在を認めて、ISを打倒すべきである」とするプーチンの戦略ははるかに明快で、現実的な力を持っていた。
また、アサドの率いるシリア正規軍の実情は2000〜3000人いるかいないかで、「風前の灯火」状態となっている。そのため、「あとのことは、アサド政権が倒れてから考えればよい」という現実的な判断からフランスはプーチンと同じ方向へ舵を切り、アメリカでも同じような意見が出て来ていた。

今回のシリア空爆は、プーチン戦略の前に薄れがちだったアメリカの存在感を高める結果となった。今後、IS掃討でロシアと共闘するにせよしないにせよ、アサド体制が残るにせよ崩れるにせよ、トランプはひとまず「獲物はロシアだけには渡さない」ことを明確にして、アメリカが参入する余地を確保したのである。

野犬の争いに例えて言えば、プーチン犬がエサを独り占めしようとしたところに、トランプ犬が現れて「分け前をよこせ」と言っているようなものである。


では、豹変したことで、どんな影響があるだろうか?

2014年のクリミア併合以来、ロシアは国際社会で孤立し、この四半世紀のうちアメリカとロシアの関係は最悪の状態にあったが、トランプ政権が親露に舵を切ることで、雪解けムードが出て来ていた。それが冬に戻るのだろうか?

現在、アメリカとロシアの間で、喧々囂々の応酬が続いている。実際、多少の亀裂は生じるだろう。しかし、私は「冬にまでは戻らない」と見ている。今回のシリア空爆にあたっては、アメリカはロシア側に事前に攻撃を通知し、駐留する一画を攻撃対象から外している。これは「激しい衝突は望まない」というメッセージにほかならない。

プーチン犬にしても、エサを独り占めしたいのは山々だが、相手は自分より強いし、宥和を進めた方が国際政治の舞台で影響力が増すのだから、我慢するしかない。

そういうわけで、結論から言えばアメリカの親露路線は継続される。ロシアもどこかで妥協して、調整を図るに違いないのである。

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【中東・北アフリカと日本】

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