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ロシアと日本

北朝鮮の非核化は、ロシアにとって損か得か?

2018年6月13日

プーチンが朝鮮半島に見出すビジネスチャンス

トランプと金正恩の会談を受けて、米・朝・韓・中・日に関する報道や解説がメディアにあふれている。しかし、ロシアについての報道はほとんどない。ようやく今朝の読売新聞に『「露「蚊帳の外」懸念』という小さな記事が出たが、取り立てて言うほどのものではなかった。

ロシアも、中国と同様、北朝鮮と親交がある。本当かウソかはわからないが、いざというときの脱出用の地下トンネルが北朝鮮からロシアに続いているという話もあるくらいである。それほど関係が濃い国なのに、表に出てこないのは、「無理に話に割って入るわけにもいかない」と考えているのだろうか?
確かにロシアがゴリ押しして入って来れる局面ではないし、ロシアにとっても、北朝鮮はシリアや中東ほどには優先順位は高くない。それでも、軽視してよい話ではない。

プーチンは妙に静かである。なぜだろう?
それは、黙っているのが一番都合がよいし、騒ぐ必要もないからである。つまり北朝鮮の非核化は、ロシアにとって基本的に得なのだ。

ヒントとなるのは、2017年9月、ウラジオストックで開かれた経済フォーラムでのプーチン発言である。プーチンは北朝鮮の核問題解決に向けて、北朝鮮を極東の「協力の枠組み」に引き入れるべきだと主張した。
内容は、おもに次の3つである。

(1)ロシアと朝鮮半島を結ぶ道路・鉄道網の整備
(2)パイプライン敷設
(3)北朝鮮の港湾活用

これらは、1990年代から繰り返し提唱しては消えてきたアイデアの蒸し返しである。実現すれば、どれもロシアにとって大きな利益をもたらすが、朝鮮半島の政治状況や採算性などが壁となって、アイデア倒れに終わっていた。しかし、韓国に親北の文在寅政権ができて、韓国・北朝鮮・ロシア3ヶ国による共同開発といった話も出るようになった。
さらに今回の電撃的な「非核化」会談である。

北朝鮮が非核化すれば、金正恩体制を維持したまま朝鮮半島の宥和が進む。うまく行けば、ロシアから韓国まで、天然ガスのパイプラインでつなぎ、シベリア鉄道と韓国の鉄道の相互乗り入れをすることが可能になる。
モスクワから9000kmも離れたウラジオストックまで走っているシベリア鉄道は、今はただの「大陸横断鉄道」だが、アジア最大級のハブ港である韓国の釜山港までつながれば、その価値は飛躍的に高まる。

ロシアのラブロフ外相は、5月末に平壌を訪れた際、今年も9月に予定されているウラジオストックでのフォーラムに金正恩も出席するよう、プーチンからの親書を手渡したという。プーチンは非核化が長期にわたることを見越して、ゆっくりこの案件に取り組むつもりだろう。

<後記>
6月14日の新聞によると、ウラジオストックでの「東方経済フォーラム」に合わせた日程が、拉致問題解決をめざす安倍+金正恩の会談の候補のひとつになっている、という。ウラジオストックは、今後、注目するべき都市になりそうだ。

※鉄道がつながるメリットは、北朝鮮にとっても大きい。
北朝鮮は、人口わずか2400万人で、GDPは鳥取県と同じくらい。吹けば飛ぶような小さな国である(アメリカ:2020兆1046億円/北朝鮮:1兆8000億円/鳥取県:1兆7792億円)。
(産経新聞2018.1.10「北朝鮮GDP、鳥取並み 米朝関係は日本の地方自治体が世界一の大国にケンカの構図」による。)
しかし、ロシア東部の玄関口として開発が進むウラジオストックと釜山を結ぶ通過路線になれば、外国からの投資も呼び込みやすいだろう。

北朝鮮「非核化」後の東アジア

米朝会談を前にして、6月8日、プーチンが北京を訪問し、習近平と首脳会談と行った。CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)を要求する日米に対抗して段階的な非核化を主張すること、米韓の軍事演習の中止を求めること、THAAD(高高度防衛ミサイル)の撤収を求めることなど、お互いの意思を確認したと思われる。

ロシアと中国は、東アジアからアメリカを追い出すことを共通の目標としている。その意味では、ガスパイプラインや、シベリア鉄道と朝鮮半島の鉄道の乗り入れが進めばロシアの影響力拡大につながり、アメリカや日本には不利である。
しかし、ロシアの影響力拡大は、中国にとっては「痛し痒し」である。この2国はアメリカという共通の敵を持つことで結びついているが、国境紛争なども抱えているからだ。 したがって、プーチンの提起する開発案が実現の方向で動くのは、日本にとって悪いとは言い切れない。

ただし、日本はロシアとの間に北方領土問題を抱えている。

簡単に歴史を振り返ると、かつて樺太や千島には日本人もロシア人も住んでいた。しかし、明治時代初期の1875年、日本とロシアは千島・樺太交換条約を結んで、樺太はロシア領、千島は日本領とした。面積から言えば樺太の方がはるかに大きいが、「弱小な日本では樺太を持っていても開発も防衛もできないから、千島に限った方がよい」と考えたのである。
この条約は日露が平和裡に結んだものであり、それゆえ第二次世界大戦後、日本は日露戦争で獲得した樺太をロシアに返還した。逆に、本来、千島は国後・択捉に限らず、すべて日本のものとされるべきである。

にもかかわらず、ロシアは歯舞・色丹という千島列島のうちに入らない根室沖の離れ小島に話を留めて、国後・択捉を返す気などサラサラない。
安倍内閣は、そこに共同事業で風穴を開けようとしている。それは将来への布石として、評価できる。しかし、これ以上急ぐ必要もない。北方領土の問題は何十年でも何百年でも粘り強く日本の正しさを主張すべきものであり、次の動きはポストプーチンのさらにポストでもかまわない。最悪なのは、「2島返還」という疑似餌に飛びつくことである。

それよりも気になるのは、今回の会談で、トランプが将来、朝鮮半島の兵力削減に言及したことである。
この問題は、本当に怖い。それは、問題の本質がアメリカの国力低下にあるからだ。アメリカにはもう他国の問題に首を突っ込んでいる余裕はないのだ。

アメリカが東アジアから手を引く日は、案外近いかもしれない。実際、中東からは手を引いた。また、朝鮮半島に非核化の兆しが見えたからといって、どの程度進むのか、またも騙されるのか未知数であって、気を許してはならない。
朝鮮半島でも、世界の多くの紛争地域と同様、「動的均衡」が重要だ。そのための準備は、粛々と進めなければならない。

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【ロシアと日本】

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