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ロシアと日本

北方領土交渉「特別な制度」の持つ深い意味

2017年01月14日

先月2016年12月、安倍首相がプーチン大統領を自分の故郷である山口県に招き、旅館に泊まって親睦を深め、東京でも会談を行った。しかし、お膳立てが大掛かりだった割に領土については具体的な進展が見られず、多くの国民は落胆することになった。
テレビのニュースを見たり、新聞を読む限り、確かにたいした進展はなかったように見える。しかし、本当に成果はなかったのだろうか?

とんでもない! 実に大きな一歩だったのである。


今回、日本とロシアは「特別な制度」を設定することで合意した。
なぜ、「特別な制度」が必要だったのかと言えば、日本にとっては第二次世界大戦末期に不当に奪われたもので、ロシアの法の下で運営することは断固として認められない。
一方、ロシアにとっては実効支配下に置いている地域であり、日本の法の下で運営することは認められない。日本の施政下に入れば日米安保条約が適用され、アメリカが自由に入ってこれることになる。ロシアにとっては、脅威である。
このような2国間で歩み寄れる策として、日本でもロシアでもない「特別な制度」が考えられたのである。

もうひとつ、会談直前の読売新聞のインタビューで、プーチンは「話し合いは2島に限定し、4島返還は論外」という考えを示していたが、「特別な制度」によって2島に限定されなくなった。
まさに見事な返し技だ。安倍首相も魅せてくれるではないか!? 智慧はプロジェクトチームの誰かが出したものだと思うが。

今までは完全な物別れに終わり、万里の長城のような高くて厚い壁がそびえていたが、これによって、人が1人か2人か通れる程度のものだが、初めて突破口が開いたのである。

安倍・プーチンというトップが決めたことで、これから事務方レベルの協議が進んでいくだろう。「特別な制度」は具体化し、形になっていくだろう。
もしかしたら、北方領土の運営は世界の領土問題を解決する手本になり、「特別な制度」は新しい国際法になっていくかも知れない。国際法とは本質的に慣習法であり、大国がやったことが受け継がれていくものだからである。
そう思うと、ワクワクしないだろうか?


では、北方領土は日本に返ってくるのだろうか?

敗戦国が領土を返してもらうのは難しい。沖縄返還交渉のときもアメリカは「血で贖われたものは、血の代償でしか取り返せない」と、厳しい姿勢をとっていた。日本だって、さんざん外国の領土を侵略してきたのだからお互い様である。

そのような領土交渉において、基本となることがひとつだけある。それは、「返還しないより、返還した方が利益になる」と相手国に認めさせることである。
沖縄の場合、当時100万人近い日本人が住んでおり、返還を希望する運動が盛り上がりつつありあった。また、戦略的にも射程の短い核ミサイルを沖縄に配置することが時代に合わなくなってきた。そして、「核付き・自由使用」を求めるアメリカに対して、「核抜き・本土並み」が戦略上可能なだけでなく、アメリカの利益になることを理解させることに成功した。(『誰も書かなかった首脳外交の内幕』高瀬保 東洋経済新報社などによる。ただし、核については、実際には「ある」と考えられる。)

北方領土も基本は同じだが、条件は大きく違う。現在、日本人は住んでおらず、代わりにロシア人が住んでいる。安倍首相はプーチン大統領に「生きているうちに故郷へ帰りたい」という元住民の声を手渡したが、もし日本に返還されたら、同じことが現在住んでいるロシア人に起こるだろう。


さて、ロシアにとって、日本との関係を深めるメリットは大きい。

ロシアは伝統的にヨーロッパとの交流がさかんだが、すでにヨーロッパは経済的には安定成長期に入っており、市場として十分ではない。
より豊かになるためには、領土の多くを占めるアジアの開発と、アジア・太平洋地域の国々との交流が不可欠である。

ロシアは中国との交易も重視している。しかし、ロシアは往年のソ連のような強国ではない。
ロシアの人口は1億4346万人(うち極東には600万人)・GDPは2兆0967億7400万ドルに対し、中国の人口は13億7605億人(うち極東には1億5000万人)・GDPは9兆1812億400万ドル。そのため政治・経済・軍事で中国に振り回されることを警戒している。「アメリカをアジアから追い出す」という共通目標のもと、中露は緊密に結びついているとはいえ、極東の人口差には恐怖すら感じているだろう。
ちなみに日本の人口は1億2657万人・GDPは4兆8985億3200万ドルである(人口は2015年/GDPは2013年)。

このような観点から言えば、日本は重要な貿易相手国であり、投資を期待できる国であり、手を携えて極東開発を進めて中国による侵食から国土を防衛するのに最も期待できる国である。
また、G7の中で唯一アジアにあり、ほかの6国に対抗していく足掛かりともなる。


北方領土における「特別な制度」がうまく行くかどうかは未知数である。また、これが日本に返還される基盤になるかどうかもわからない。
しかし、とてもクリエイティブな試みであり、やってみる価値はあると思う。

<後記 2017.7.30>
日露首脳会談では北方4島の名前は、共同経済活動を行う場として、全部入れることができた。一方、80の事業が計画されているが、ロシア側だけに得というものはない。外交的には、日本は十分な成果を上げたと言ってよい。
ただし、その後、ロシアは北方領土を特区に指定して、日本に揺さぶりをかけている。そして、開発を韓国企業に請け負わせるなどして、焦らせようとしている。「さあ、安倍! 食えよ! 食いつけよ!」という意図が見え見えだ。
しかし、北方領土は、本来、歴史的にも国際法的にも日本のものであり、譲歩する必要は何もない。「特別な制度」で穴が開いたからと言って、性急に事を運んではならない。
布石は打ったのだから、次の段階は20年後、30年後、50年後でよい。プーチン後にじっくり腰を据えて解決をはかり、将来は平和条約締結へ結びつけるべきである。
今はむしろ極東エリアに住む中国人がロシアを侵食するように仕向け、中露の分断を図る方がよいだろう。その上で「日本が入ってあげましょうか?」と話を進めていくのである。

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著者 著者

【著者】
広沢 大之助

出版業界でおもに社会科の本の編集にかかわってきました。全国の中学校の授業で使う公民・地理・歴史の資料集や参考書、その他多くの書籍をつくっています。
「国民のための社会科」では、眼光紙背の精神で、政治経済・社会問題・産業などについて、くわしく、わかりやすく解説していきたいと思っています。
プロフィール

【ロシアと日本】

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